(ブルームバーグ):トランプ米大統領が発表した上乗せ関税の一時停止期限が9日に迫り、米国の主要貿易相手国・地域は合意の最終決着や期限延長の交渉を急いでいる。
日本などとの貿易協議を主導するベッセント財務長官は、期限までに合意がまとまらない一部の国について、3週間の交渉期間延長の選択肢が与えられる可能性を示した。
ベッセント長官は6日に二つのテレビ番組に出演した。CNNでは「今後72時間、非常に忙しくなるだろう」と発言。9日の期限までに残された時間に言及した。
その後、トランプ氏による国・地域別の関税措置について、ラトニック商務長官は6日、8月1日に発効すると述べた。貿易相手国・地域に一定の猶予を示唆した形だ。ニュージャージー州での週末を終えてワシントンへ戻るトランプ氏に同行したラトニック氏は、一緒に大統領専用機に搭乗する際に記者団に語った。
トランプ氏は「7月9日までには、ほとんどの国と書簡か合意の形で決着がつくだろう」と語った。関税引き上げを警告する書簡は7日から発送され始め、「幾つかは8日に送られるだろう」とも話した。
「合意も結んだ。われわれは書簡と合意の組み合わせで対応する」とトランプ氏は発言。どの国や地域と合意に達したのかや、それとも書簡を送付するのかについては明言しなかった。
ラトニック氏はトランプ氏の隣で、「関税は8月1日に発効するが、大統領は現時点で関税率と合意内容を決定しているところだ」と説明した。
トランプ氏は米独立記念日の週末に記者団に対して「一部の書簡に署名した。7日に送付されることになるだろう」とし、当初は「恐らく12通だ」と表明。相手によって「金額や関税は異なり、内容もやや違う」と続けた。通知先の具体的な相手を問われると、「その発表は7日に行う」と答えた。
ベッセント長官は6日のテレビ出演で、書簡を受け取った国・地域にとって、そこに書かれている関税率が直ちに最終決定になるわけではないことを示唆。関税率の適用は8月1日からなので、合意に近づいていない国が譲歩案を提示する時間はなおあると述べた。
トランプ政権の当局者らは、米政府と合意できなかった国に対しては7月9日の時点で、4月2日に発表した上乗せ関税の高税率を適用するとこれまでに示唆してきた。
ベッセント長官は、進めている協議の件数があまりにも多いため、交渉の最終段階は複雑になっていると認めた。
「最終局面に向けて大変混み合っている」とFOXニュースの番組で長官は発言。「貿易相手国に対し、4月2日の水準に戻す可能性があると通知することで、今後数日や数週間、状況を進展させることになるだろう」と述べた。
一方でベッセント氏はCNNで、8月1日を新たな期限と位置付けることは否定し、書簡を受け取った国は「交渉を急ぎたいならそうすればよい。元の関税率に戻っても構わないのなら、それも選択肢だ」と述べた。
18カ国・地域に重点
ベッセント氏は主要な貿易相手18カ国・地域に重点を置いていると述べ、複数の大型合意がまとまるのは近いとしながらも「相手側で腰の重い対応が多く見られる」と指摘した。
トランプ政権の当局者らはここ数週間、複数の合意が間近に迫っていると述べてきたが、これまでに発表されたのは英国との限定的な枠組み、中国との貿易枠組み合意に関する最終的な理解の取りまとめ、およびベトナムとのディールを取りまとめたというトランプ氏の短い説明だけだ。
トランプ大統領とベッセント長官の直近の発言からは、期限の3日前という段階でも交渉が流動的で、合意成立が見通しづらい様子がうかがえる。
ベッセント氏はCNNで、貿易相手国に米政権として最大限の圧力をかけていると発言。欧州連合(EU)との交渉では「非常に良い進展」が見られていると説明した。EUは米国の物品貿易総額のおよそ5分の1を占める。

トランプ氏はこれより先、通知は4日に始めるつもりだと述べていた。米国は4日が祝日のため週末は3連休だが、米当局者は日本や韓国、EU、インド、ベトナムなどとの交渉に追われている。
交渉におけるトランプ氏の特徴の一つは、交渉が重要な局面に入ると一方的に脅しをかけることだ。このため同氏が言及した書簡は事実なのか、譲歩をいまだ渋っている貿易相手を不安に陥れる意図なのか定かではない。
各国の交渉状況
トランプ氏は2日にベトナムとの合意を発表した。だが、同国外務省によると、交渉チームは米国側と詳細を巡る詰めの作業を依然続けている。
インドとの暫定合意も成立が見込まれていたが、過去数日間にインドは態度を硬化させたことを示唆。自動車・自動車部品への米国の関税引き上げに対抗し、一部の米製品に関税を課す可能性をちらつかせ始めた。
自動車関税を懸念しているのは韓国も同様だ。韓国は関税引き上げを回避しようと、期限延長を目指す土壇場での交渉を米当局者と続けている。
トランプ氏の看板政策を盛り込んだ大型減税・歳出法が成立し、米株式相場が過去最高値を付ける中で、新たな貿易障壁が投資家の懸念を再燃させる恐れがある。
米企業にとっては外国から財を購入する際のコストが増加するほか、EUなど輸出先の報復措置に遭う可能性もある。
EU加盟国は過去1週間の交渉状況について4日に説明を受け、事務レベルの大筋合意が近いと報告された。
一方、石破茂首相はあらゆるシナリオに備えていると述べた。NHKとフジテレビの党首討論番組に出演した石破氏は安易な妥協はしないと明言し、「あらゆる場合に」備えつつ国益を守っていく姿勢を示した。
カンボジア政府は4日の声明で、米国と大枠で合意したと明らかにし、近く内容を公表すると説明した。米国がカンボジアに対して打ち出した上乗せ関税率は49%で、最も高い部類に入っていた。同国は米国に繊維製品や靴を大規模に輸出している。
原題:Nations Chase US Trade Deals as Bessent Hints at Extension (1)、US Trade Partners Chase Deals as Bessent Eyes Busy 72 Hours (1)、Lutnick Says Trump’s Tariffs Will Take Effect on August 1(抜粋)
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--取材協力:我妻綾、Hyonhee Shin、Alberto Nardelli、Jorge Valero、Shruti Srivastava.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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