米国のステーブルコインに対する楽観論の高まりを背景に、ステーブルコイン発行企業の米サークル・インターネット・グループの株価は一時約8.5倍となった。一方で、株価の上昇基調を維持していくためにはステーブルコインが広く利用される決済手段となっていく必要がある。

サークルが発行するステーブルコイン「USDC」は市場シェアが2番目の規模を誇る。同社の株価は、今月5日の新規株式公開(IPO)初日に公開価格31ドルから168%急伸。その後も上昇を続け、23日終値は9.6%高の263.45ドルと過去最高値を更新した。一方、24日には終値で約15%下落し、上昇に一服感も見られる。

サークルは、ステーブルコインに関連する資産を保有する数少ない上場企業の一つで、ステーブルコイン規制を巡る期待の高まりの恩恵を享受してきた。

米上院では今月17日、ドルに連動して安定性を高めた暗号資産(仮想通貨)ステーブルコインに関する規制を定める法案を賛成多数で可決。暗号資産業界やトランプ米大統領にとって重要な成果となった。米下院でも独自の法案を検討している。

トランプ氏が関与する分散型金融(DeFi)プロジェクト「ワールド・リバティー・ファイナンシャル(WLF)」のステーブルコインはすでに約20億ドル(約2900億円)の市場価値を有している。

米国の他の大手企業も追随している。米決済処理サービス会社マスターカードは24日、フィンテック企業の米ファイサーブと提携し、ステーブルコインを自社の製品やサービスの全体に統合する計画を発表。ウォルマートやアマゾン・ドット・コムも独自のステーブルコインの発行を検討しており、米ビザなど決済処理ネットワーク運営企業の株価の重しとなっている。

ファイサーブは23日、独自のステーブルコインを発行し、パクソス・トラストやサークルの基盤を活用すると発表。ファイサーブの株価は23日の米国株式市場で4.4%上昇した。

もっとも、ステーブルコインの将来性を巡り懸念する声もある。

ジェフリーズのアナリスト、トレバー・ウィリアムズ氏は「ステーブルコインは米国で主要な決済手段にならないとみている。現在のカード決済システムは便利な上、安全で特典も豊富だ」と23日のリポートで指摘した。

さらに、ステーブルコインは消費者が使いづらく、新たな割引や特典の恩恵を提供できない可能性があるとし、「米国の消費者にとって、USDCを保有する理由は暗号資産取引の資金の出し入れに使うウォレット以外には見当たらない」と付け加えた。

RIAアドバイザーズのポートフォリオマネジャー、マイケル・リーボウィッツ氏は、ステーブルコインは暗号資産を売買する人々にマネーマーケットファンド(MMF)のようなサービスを提供しているとみている。同氏は「ビザを打ち負かしたり、損害を与えたりするほどの存在になるとは思っていない。暗号資産にある資金の多くはもともと使用する予定にないものだからだ」と話した。

その他のリスク

サークルの株価を巡っては、浮動株の少なさというリスクもある。25%にすぎない浮動株比率は、S&P500種株価指数を構成する企業の平均である95%と比べて大幅に低い。浮動株比率が低いと取引の変動幅が大きくなるため、市場心理が反転すれば下げが大きくなる可能性がある。

また、株価収益率(PER)は約180倍に達し、S&P500構成銘柄の平均である約22倍を大きく上回っている。ギルガメッシュ・ベンチャーズの共同創業者ミゲル・アルマザ氏は、サークルのPERが同業他社と比べて高い水準を維持していくには、今後1年で純利益率などを大幅に押し上げる必要があると指摘している。

一方で、ステーブルコイン市場の成長が今後も続いていく兆しもある。サークルは4月、金融機関がステーブルコインを使った国際決済を行えるように支援する決済ネットワークを立ち上げる計画を発表している。また、今月にはカナダの電子商取引会社ショッピファイが世界中の加盟店や顧客向けにUSDCを使った決済を導入すると発表している。

FRNTファイナンシャルのデータ分析責任者、ストラヒンジャ・サビク氏は、小売業者のコスト削減ニーズや公開市場での暗号資産関連投資の拡大を望む投資家からの需要が追い風になっていると指摘した。

原題:Circle’s 750% Surge Heats Up Debate Over Stablecoin Payments (1)(抜粋)

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