(ブルームバーグ):今年1月、プーマはランニングシューズ市場への本格復帰を目指し、草の根マーケティングキャンペーンを開始した。77年の歴史を持つ同社は今春のボストンマラソンおよびロンドンマラソンに出場予定で、過去に3時間前後で完走した実績のあるランナーをSNSで募集。それぞれの大会向けに100人を選び、当時まだ極秘扱いだった「FAST-R ニトロ エリート3」シューズを提供した。
21日に開催されるボストンマラソンでプーマは、同シューズを履いた市民ランナーの多くがプロに次いでゴールすることで大きな注目を集めることを狙っている。同社のランニング部門責任者、エリン・ロンジン氏は「これはちょっとした奇襲作戦。『みんなが履いてるあの靴は一体何だろう』と驚いてくれたら成功だ」と語った。
市場調査会社サカーナによると、ランニングシューズは現在最も売れているフットウェアの一つで、米国市場だけでも昨年6%拡大し、その規模は74億ドル(1兆500億円)に達した。ナイキが先行したクッション性重視のモデルではオンやホカといった新興ブランドがシェアを拡大し、ニューバランスやブルックス、アシックスといった既存ブランドも存在感を示している。
一方、プーマは出遅れを取り戻そうとしている。同社は2021年に本格的なランニング市場に再参入したが、その後ファッション部門の業績不振もあり、株価はピークから82%も下落。今月には、経営方針を巡る取締役会との対立からアルネ・フロイント最高経営責任者(CEO)が就任からわずか2年で退任した。
かつてプーマはランニング界の先駆者だった。1964年の東京五輪ではエチオピアのアベベ・ビキラ選手が同社のシューズを履いてマラソン連覇を果たした。しかし、靴下やスウェット、下着といった「スポーツ・ライフスタイル」路線への転換で本格的ランナーからは見放されていった。
その流れが変わり始めたのが2018年。当時のCEOビョルン・グルデン氏がサッカーやバスケットボール部門の再構築を経て、ランニング市場への復帰を計画した。目的はナイキなどの競合を模倣して短期的な成果を得ることではなく、長期的な信頼を築くための独自製品の開発だったと、プーマのイノベーション責任者ロマン・ジラール氏は語る。
その前提として必要となったのが新素材の開発だった。さまざまな素材を試し、最終的には、反発力を高めるために窒素(ニトロ)ガスを注入したバージョンにたどり着いた。
2021年2月、プーマはニトロを搭載した5種類の新モデルを発表。4年が経ち、多くの高評価を得てはいるものの、ブランド再生までには至っていない。
昨夏に米ランニング専門店チェーンのフリート・フィートが約300店舗のデータを基に発表したリポートでは、ホカ、ブルックス、オンが最も人気のあるブランドとされ、プーマはトップ10にも入らなかった。
RBCキャピタル・マーケッツのアナリスト、ピラル・ダダニア氏は「ニトロは非常に優れたランニングプラットフォームで、他の多くの製品よりも良い」と評価した上で、「ただ、それを商業的に成功させる努力が足りていない」と指摘した。
そこで登場するのが、ボストンマラソンで採用するゲリラ的マーケティング戦略だ。ボストンマラソンやロンドンマラソンでは、自社シューズを履いた選手たちが先頭集団を走る姿を観客に見せつけることで、競技ランナーのみならず、より多くの一般消費者の心をつかむことを狙っている。
もちろん、プーマは契約マラソン選手たちの勝利にも期待をかけている。オーストラリアのパトリック・ティアナン選手は2022年にプーマと契約して以来、ナイキなど他のメーカーのシューズを履いたライバルと互角に戦ってきた。現在30歳の同選手は、プーマ製シューズが走行効率を高め、アドバンテージをもたらす可能性があると感じている。
「他の選手が履いている靴よりも、こっちの方が実際に優れてるかもしれない──そう思ったのは今回が初めてだ」と語った。
原題:Puma’s New Running Shoes Offer Hope For a Brand Desperate to Win(抜粋)
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