トランプ米大統領が2日に発表した相互関税は、インフレ抑制とリセッション(景気後退)回避に苦慮する米連邦準備制度理事会(FRB)の仕事を大幅に複雑化させる。このため金融当局は様子見姿勢を維持する公算が大きい。

KPMGのチーフエコノミスト、ダイアン・スウォンク氏は「基本的に最悪のシナリオだ」と述べ、関税は米景気減速の可能性を高めると予想した。

それでも同氏や他のエコノミストは、米金融当局が関税によるインフレへの潜在的な影響を評価する間は利下げを先送りする可能性が高いとみている。

多くのアナリスト予想より厳しい相互関税がこのまま発動されれば、毎年数兆ドルに上る輸入品の価格を押し上げる見通し。米国と貿易相手国との報復関税の応酬で貿易戦争が本格化すれば、サプライチェーンの混乱やインフレの再燃、経済見通しのさらなる悪化を招きかねない。

ワシントンにあるFRBのビル

トランプ大統領は2日、米国への全輸出国に最低10%の関税を適用すると述べたが、多くの国々に対する関税率はそれをはるかに上回る。中国の場合、先に賦課された20%の関税を合わせると多くの品目で税率は50%を超えることになる。欧州連合(EU)に対する税率は20%、ベトナムは46%、日本は24%となる。

ブルームバーグ・エコノミクスは、新たな課税により、米国の平均実効関税率は2024年の2.3%から、約22%に上昇する可能性があると推計。インフレーション・インサイトのオメイア・シャリフ社長は、25%から30%の水準になると試算した。

相互関税の発表を受け、投資家の間では年内の米利下げは少なくとも3回との見方が浮上した。

しかし、新型コロナウイルス禍による物価上昇の抑制に依然として取り組んでいる米金融当局にとっては、関税発動に伴うインフレの影響を考慮すると、景気てこ入れのため介入する余地は狭まる。

パウエルFRB議長は4日にバージニア州アーリントンで開催される会議で講演を行う予定。

ウェルズ・ファーゴのチーフエコノミスト、ジェイ・ブライソン氏は「FRBは板挟み状態だ」と指摘。「経済成長が鈍化し失業率が上昇すれば、FRBはより緩和的な政策をとって金利を引き下げたい考えだ。他方で、インフレ率が上昇すれば金利を引き上げたい意向だろう。つまり、FRBは本当に難しい立場に置かれている」と分析した。

RSM・USのチーフエコノミスト、ジョセフ・ブルスエラス氏は、新しい関税制度は多くのアナリスト予想よりもはるかに厳しく、米国のリセッションの可能性を高めるとの見方に同意した。

ブルスエラス氏は「年末までにインフレ率が3-4%のレンジに達すると予想している」と述べ、米金融当局が近い将来、あるいは中期的に利下げで景気に緩衝材を提供することはなさそうだと予想した。

原題:Tariffs Put Fed in Tough Spot, Raise Growth and Price Fears(抜粋)

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