(ブルームバーグ):中国は2025年の国内総生産(GDP)成長率目標を5%前後に設定した。米国との貿易戦争に備える中、景気刺激策の強化期待が高まっている。
李強首相が5日午前に開幕した全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の政府活動報告で今回の目標を公表した。5%前後の成長率目標はこれで3年連続となるが、達成には困難も予想される。
政府活動報告によると、中国は今年の財政赤字目標を対GDP比4%前後に設定。約30年ぶりの高水準となる。GDP成長率と財政赤字目標はエコノミスト予想に沿ったものとなった。
オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)の大中華圏担当チーフエコノミスト、楊宇霆氏は「これは野心的な成長目標であり、当局がなお景気を支援する必要があることを意味する」と指摘。「今回の数字は対外的な不確実性や米国との貿易対立を背景に、当局が成長を下支えする決意であることを反映している」と述べた。

李首相は、トランプ米大統領が上下両院合同会議で施政方針の演説を行う直前に中国経済の青写真を説明した。
トランプ政権は4日、対中関税をさらに10%引き上げており、中国にとっては昨年の経済成長に大きく寄与した輸出が脅かされる恐れがある。
そして、これは始まりに過ぎないかもしれない。トランプ氏が大統領選期間中に示していた60%の対中関税案が実行に移されれば、世界2位の規模を誇る中国経済にとって、今年の成長の相当部分が失われる可能性がある。
習近平指導部が強気の目標を掲げたことを受け、昨年12月の方針通り、一段と踏み込んだ刺激策を講じる必要があるとみられる。
李首相は今回の目標について、「困難に正面から立ち向かい、成果を出すべく懸命に努力する決意を示すものだ」と説明。「成長率を5%前後に設定するにあたっては、雇用を安定させ、リスクを防ぎ、民生を向上させる必要性を踏まえた」と述べた。
また、同首相は「適度に緩和的な」金融政策を支持すると改めて表明した後、中国人民銀行(中央銀行)が利下げや預金準備率の引き下げを「適時」実施するとの見通しを示した。

中国政府は刺激策強化の財源として、特別債の発行を増やす計画だ。財政赤字に算入されないインフラ整備などの分野における公的支出拡大で必要となる資金を調達する。
ブルームバーグが当局の数字を計算したところ、政府の赤字目標は広義ベースで25年に対GDP比9.9%と過去最高に達し、昨年の同7.7%から上昇した。

この計画の一環として、当局は1兆3000億元(約26兆8000億円)相当の特別国債を発行し、そのうち3000億元を住民の消費財購入に対する補助金プログラムの財源に充てる。残りの資金は主要なインフラプロジェクトの整備や企業の設備改善の奨励に向けられる。
社会の安定にとって、堅調な経済成長を維持することは重要だ。シンクタンクの国家情報センターでチーフエコノミストを務めた祝宝良氏の推計によれば、GDPが1ポイント拡大するごとに約250万人分の雇用が創出され、雇用を安定させるには5%前後の成長が必要になる。
中国政府は25年に1200万人を超える新卒者が労働市場に加わると予測しており、昨年をやや上回るとみている。
ユニオンバンケールプリヴェ(UBP)のマネジングディレクター、ベイサーン・リン氏は、25年の成長率と財政の目標に関して「中国政府が経済を支援する用意がある」ことを示していると分析。「これは市場にとって安心材料になるはずだ」と話す。
改善の持続性
最近では中国経済の見通し改善を示唆する兆しも出ている。習主席とテクノロジー大手による異例の会合と同様、DeepSeek(ディープシーク)の人工知能(AI)における躍進は、市場心理を高めた。
だが、トランプ大統領が予測不能な関税を打ち出し、テクノロジーの優位性を巡る米中の争いが激しくなる中、こうした勢いがいつまで続くかが焦点だ。
ブルームバーグがアナリスト77人を対象に実施した調査では、中国の25年の成長率は4.5%にとどまると予想されている。
中国政府は消費者物価指数(CPI)上昇率目標を03年以来の低水準となる2%前後に引き下げ、デフレ圧力を暗に認める形となった。
この目標はこれまで上限とほぼ考えられていたが、ここ2年はCPI上昇率が0.2%にとどまっており、同目標の引き下げは物価の押し上げが課題であることを認めたことを示している。政府に対し、拘束力のある政策目標として設定するよう求めるエコノミストは増えている。

原題:China Sets Bullish Growth Goal of About 5%, Despite US Tariffs(抜粋)
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--取材協力:Fran Wang.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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