(ブルームバーグ):トランプ米大統領は5日、経済や外交政策に関する施政方針演説を行う予定だ。中国、カナダ、メキシコからの輸入品に対する追加関税を発動し、今後は鉄鋼や自動車にも導入する方針を示す同氏の動向を日本企業も注視する。ソニーグループなど一部企業は在庫を積み上げるため事前に輸出量を増やす対応を取り始めた。
ブルームバーグが米関税による影響や対応について2月末までに国内主要企業を対象に実施したアンケートに対し、ソニーGは足元では米国内に一定水準の戦略在庫を積み上げるなどの備えを進めてきたと回答した。川崎重工業は米国輸出の早期化に取り組んでいるとし、サントリーホールディングスも「輸出量を増やす対応をすでに取った」と回答した。
1月の米国輸入は急増しており、関税実施に先立ち多くの企業が在庫積み増しに向け同様の取り組みを行ったとみられている。ただ、効果は一時的で、いずれは吸収し切れないコスト上昇分を価格転嫁したり、米国内に生産移転したりといった、より抜本的な対策が必要となる。
トランプ氏は中国からの輸入品について2月4日に追加関税を発動した後も、積極的な関税計画を次々と打ち出している。延期されていたカナダとメキシコからの輸入品にも4日から25%、中国にさらに10%の追加関税を課しており、これらの国々から米国に輸出を行う日本企業も影響を受けることになる。今後、アルミ、鉄鋼や自動車の輸入品に対する関税が実施されれば、影響はさらに大きくなる恐れがある。
ただ状況は流動的だ。ラトニック商務長官は4日(米国時間)、「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」の対象となるメキシコおよびカナダ製品に関し、関税の軽減に向けた道筋を5日にも発表する可能性があると明らかにした。
第一生命経済研究所の前田和馬主席エコノミストは、トランプ氏の本気度には不透明なところがあり、企業が様子見の対策として輸出を前倒しするのは合理的だと指摘。ただ関税の期間が半年や1年以上続くとなると対処できなくなり、販売価格に関税分を転嫁する動きや、工場の場所を考え直す動きが徐々に出てくる可能性があると話す。
米国は日本にとって最大の輸出相手国で、うち自動車や自動車部品は全体の金額の約3分の1を占めている。日本自動車工業会の片山正則会長(いすゞ自動車会長)は2月25日の武藤容治経済産業相との意見交換会で、関税が日本、メキシコ、カナダからの輸出車に適用されれば日米の経済への悪影響も懸念されるとし、適用免除となるよう支援を求めた。
また、片山氏は日本の自動車メーカーは2023年までの累計で米国に約616億ドル(約9兆円)を投資するなど大きな貢献を行っていることも強調。自動車部品メーカー大手のデンソーも、米国への投資や雇用拡大を通じて経済・産業の発展に貢献してきた姿勢は今後も変わらないとした上で、日本政府には「米国関係者への理解活動の継続強化をお願いしたい」とブルームバーグのアンケートに回答した。
東芝も、関税引き上げの影響に対する緩和策をはじめ、米国での工場設立などへのアドバイスや金銭的な支援を政府に期待しているという。

経産相との意見交換会にはトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車など国内の主要自動車メーカーの社長や副社長なども出席し、各社の危機感の高さをうかがわせた。業界からの要望を踏まえ、武藤経産相は早期に渡米し関税措置から日本を除外するよう求める考えを示している。
自動車は1台当たり約3万個の部品からできており、関税の影響は多くの取引先に及ぶ公算が大きい。
日本鉄鋼連盟の今井正会長(日本製鉄社長)は25日、米国に輸出している自動車の数量を鉄鋼需要に換算すると「大きな影響がある」と語った。日本から米国への鋼材輸出は100万トンレベルで抑えられているが、「自動車の影響が加わってくると、数量面での影響は大きいのではないかと懸念している」と続けた。
関税の実施時期や対象などに関しては不透明な部分も多く、業績への影響は現時点では見通しにくい状況だ。ブルームバーグのアンケートに対し、シャープは「売り上げ・利益の下押し要因になるが、現時点では限定的」と回答、SUBARU(スバル)は関税の詳細が確定していない段階だとして、「具体的な金額や影響範囲について回答することは差し控える」とした。ソニーGは今期(25年3月期)の「業績に与える影響は軽微」だとした。
(ラトニック米商務長官の発言を加えて更新しました)
--取材協力:小田翔子、長谷部結衣.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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