多くの犠牲者が出ているウクライナでは、精子を凍結して保存する兵士が増えています。命を失っても子どもを残したいと願う夫婦らを取材しました。

ウクライナ・リビウにある生殖医療を行うクリニックです。

兵士である夫のドミトロさんは現在、けがの治療のため戦線から離脱しています。

夫・ドミトロさん(42)
「(激戦地となった東部)バフムトでは、敵の包囲網から脱出しました。その時、たくさんの兵士が殺されました」

夫婦は精子を凍結し、妊娠を試みることにしました。また前線に派遣され、いつ戦死するかわからないからです。

妻・ナタリアさん(38)
「妊娠のための治療を先延ばしにしたくありません」

3年前のロシアによる侵攻開始後、人口減少の懸念も深まっています。

記者
「マイナス200℃近いタンクの中に兵士たちの凍結された精子が保管されています」

“命を失ったとしても大切な人との子どもを残したい”。生殖医療に希望を託し、精子を凍結保存する人たちが増えています。

2か所あるこのクリニックでは、あわせておよそ1500人分と侵攻開始前の2倍となりました。

夫が戦地で行方不明となった女性もいます。マリアさん(35)は夫のペトロさんと1年10か月、連絡がとれていません。

マリアさん
「(夫から最後に)これからミッションに出るので、数日間連絡が取れなくなるというメッセージが来ました。すごく会いたい」

自然妊娠が難しかったことから、前線に行く3か月前に精子を凍結。マリアさんは、その精子で体外受精をしたいと考えています。

笑うと頬のえくぼが魅力的なペトロさんにはもう会えない。そう覚悟を決めています。

マリアさん
「妊娠したいです。一人でも一生懸命、育てます。だって子どもは彼の一部ですから。私が望むのは平和な国で家族と暮らし、たくさんの子どもを育てることです」

ウクライナでは去年、戦死した兵士が残した凍結精子の廃棄をめぐる議論が巻き起こり、政府は死亡後も精子を使うことを認める法改正をしました。

クリニックを経営 ステファン・フミル院長
「(兵士は)将来のために自分たちの生体材料を保存し、国家を復活させたいと考えています」

一方、ドミトロさん、ナタリアさん夫婦はこの日、妊娠したことが分かりました。

フミル院長
「検査薬にラインが出ましたか、妊娠おめでとう」
妻・ナタリアさん
「ありがとうございます」

戦争は命をつなぐ家族のあり様にまで深く影響を及ぼしています。