情報統制はAIの時代へ
昨今、人工知能(AI)は情報収集および意思決定支援の手段として急速に普及し、インターネットやスマートフォンなどのオープンなデジタル環境下でその利便性が広く享受されるようになった。
ただ中国においては、従来からグレートファイアウォールなどを通じたインターネット検閲が行われ、政府にとって都合の悪い事実や批判的な歴史認識、さらには政治的立場に関する情報が厳しく制限されてきた。近年これらに加え、最新のAIによる自動的かつ高度な情報操作が現実味を帯びるようになった。たとえば、歴史的事件や現代政治の敏感なテーマに対して、中国産のAIは回答を拒否する、あるいは公式見解のみを提示することで、事実の歪曲や情報の偏在を引き起こす可能性が高まっている。この現象は、単なる技術的な問題に止まらず、国民の歴史認識や政治的判断に直接的な影響を及ぼすため、健全な公共圏および民主主義社会の根幹を脅かす重大な社会的リスクになり得る。
また、米国や欧州などの先進国においても、プライバシー保護やフェイクニュース対策としてAIを利用することに関する議論は盛んであるが、基本的には自由な情報流通を前提とする倫理的な枠組みが整備されているのに対し、中国では国家の統制下で情報操作が行われるため、その透明性や説明責任が大きく欠如している点が特徴である。
本レポートでは、中国産AIによる情報統制の実態を検証し、このような情報統制がグローバル社会に及ぼす影響について考察する。
中国産AIにおける情報統制の実態
中国産の主要AIサービスにおいて、政治的・歴史的に敏感なテーマに関する情報提供がどのように行われているか、その実態を明らかにするため、いくつかの質問を設定し、それに対する中国産AIの回答を検証した。
政治的に機微な質問として「天安門事件」「台湾独立」「ウイグル人権問題」「習近平」「中国共産党」に関する質問を行ったところ、中国産AIでは一貫して回答拒否のパターンが確認された。具体的には、「你好,这个问题我暂时无法回答,让我们换个话题再聊聊吧(申し訳ありませんが、この質問にはお答えできません。他の話題に変えましょう)」という定型的な回答が返された。
一方、「台湾は中国の領土か」「尖閣は中国の領土か」「香港民主化運動」といった領土や主権に関する質問に対しては、中国政府の公式見解に完全に沿った形での回答が提供された。たとえば台湾に関しては「台湾は中国の領土であり、これは歴史的かつ法的な事実である」という立場が強調され、尖閣諸島についても中国の主権を主張する一方的な見解が示された。
対照的に、「三国志」のような政治色を帯びない歴史や文化に関する質問では、詳細な説明と客観的な情報提供が行われた。これは、政治的に非機微な話題に関しては、AIが本来期待される情報提供機能を果たしていることを示している。

上記の質問と回答を分析すると、中国産AIの回答パターンには明確な傾向が見られる。政治的に機微な事項については一貫して回答を拒否し、領土や主権に関する問題については政府の公式見解を強調する一方で、非政治的な歴史や文化に関する質問には詳細な情報提供を行っている。

以上の検証結果から、中国産AIにおける情報統制は、組織的かつ戦略的に実施されていることが推測される。特に注目すべきは、単純な情報遮断だけでなく、政府見解の積極的な伝播と非政治的話題における情報提供の使い分けが巧妙に行われている点である。このような情報操作は、利用者の違和感を最小限に抑えながら、特定の歴史観や政治的立場を効果的に浸透させる仕組みとして機能していると考えられる。