(ブルームバーグ):ゲームソフト「パルワールド」を開発したポケットペア(品川区)が前週末、任天堂とポケモン(港区)から提起された訴訟内容を明らかにした。任天堂はこれまでも知的財産(IP)を巡って数々の法的措置を講じてきた。知財関連の人材や経験値を蓄積しており、裁判での戦い方が分かっているのが強みという声が識者からは上がる。
ポケットペアの8日の発表によると、任天堂側は1月にリリースされたパルワールドの差し止めと計1000万円の損害賠償および遅延損害金の支払いを請求しているという。訴訟対象となる特許は、捕獲アイテムを対象に投げて捕獲できたかどうかの判定行為を行い、成功したら所有できるといった内容など3件だ。
今後口頭弁論が開かれる予定だが、人気の一方で「ポケットモンスター」との類似性を指摘されてきたパルワールドを巡る訴訟は、任天堂が自社の知財や収益を守ることができるかという観点で広く関心を集めそうだ。ポケットペアとしては今後の訴訟手続を通じて同社の見解を主張していくとした。

知財問題に詳しい弁理士の嵐田亮氏によると、任天堂はパルワールドのリリースから2週間程度で特許の追加取得に向けた行動を始めており、「恐らく任天堂とポケモンの関係者がパルワールドを実際にプレイして操作を確認した上で、パルワールドが権利範囲に含まれるように特許を取り直したのではないか」と話す。
嵐田氏は、任天堂にはまだ審査請求していない特許出願もあり、訴訟におけるポケットペア側の反論次第でさらに特許を追加取得する可能性もあるとみている。
任天堂はポケットペアとの訴訟や、任天堂知財部門についてコメントすることはないとした。同社は以前から、長年の努力で築き上げてきた知財を保護するために、同社のブランドを含む知財の侵害行為に対しては必要な措置を講じるという方針を掲げてきた。
IPは生命線
マリオなど多くの人気キャラクターを抱え、携帯・据え置きどちらも可能な家庭用ゲーム機「スイッチ」など新しい遊び方を提案してきた任天堂にとって、特許や著作物はビジネスの生命線。知財部門の果たす役割は大きい。
任天堂は豊富な知財を持ち、「常にまねされる側の立場にある」ことから「任天堂のブランドイメージを守るためには全力で争う」企業だと、嵐田氏は指摘する。
知財法に詳しいユニヴィス法律事務所の松下朋弘弁護士は、任天堂の用意周到さを指摘する。同社が同業のコロプラを特許侵害で訴えた際には提訴前に特許内容の一部を訂正しており、「知財部門の方でこの特許はもう少し攻撃性を高めることができるという検討」をしたのではないかと分析。また、開発陣など事業部門側の知財に対するリテラシーも高いはずだとして、「理想的な両輪」体制だと述べた。
過去の主な訴訟
白猫プロジェクト
コロプラのゲームアプリ「白猫プロジェクト」でタッチパネル上でジョイスティック操作を行う際に使用される特許技術などが侵害されたとして、2017年に配信差し止めと約44億円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴。21年にコロプラが任天堂に約33億円を支払い、任天堂は訴えを取り下げることで和解した。
マリカー
公道を走るカートに「マリカー」などと表示したり、マリオなどのコスチュームを貸与したりする行為が不正競争行為に当たるとして、17年に運営会社に対して著作権侵害行為などの差し止めと損害賠償を求めて東京地裁に提訴。第1審で不正競争行為の差し止めと損害賠償金の支払いなどを命じる判決が下され、控訴審で5000万円の損害賠償金の支払いと不正競争行為の差し止めなどが命じられた。上告審は不受理だったため、20年に控訴審判決が確定した。
マジコン
携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」で不正コピーソフトを起動できるマジコンといわれる装置を輸入販売していた業者らに対し、不正競争防止法に基づき、行為の差し止めと損害賠償を求めて09年に東京地裁に提訴。第1審で輸入販売行為の差し止めと約9560万円の損害賠償金の支払いを命じられ、控訴は棄却、上告は不受理だったため、16年に第1審判決が確定した。
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