米国ではホンダのスポーツタイプ多目的車(SUV)所有者の3分の2が下取りに出す際、別のホンダ車に買い換えている。これは自動車の製造・販売という過酷な業界ではめったに見られない、iPhoneに匹敵するレベルの忠誠心だ。このような状況を背景にホンダは同社初の電気自動車(EV)で米テスラの牙城を急速に切り崩している。

ホンダは9月30日までの3カ月間で、電動の中型SUV「プロローグ」を約1万3000台販売した。最も売れている電動SUVであるテスラのモデルYの市場シェアにはまだ及ばないが、プロローグは米EVの中で第5位となった。お気に入りの自動車ブランドからテスラ車に代わる手頃な価格のEVを待ち望んでいた消費者の関心を射止めた格好だ。

ユタ州在住のソフトウエア開発者、メリッサ・ジョーンズさん(45)は大気汚染や気候変動にそれほど関心があるわけではないものの、ホンダのファンで、自身にとって19台目となる自動車として6月にパシフィックブルーのプロローグを購入した。

「EVが特に好きなわけではないが、新しいホンダ車を試してみたかった。ディーラーに1台入荷された際にはすぐに試乗した」という。

ニューヨーク州クイーンズにあるパラゴン・ホンダでは通常、ガソリン車のCR-Vが最もよく売れるが、9月にはCR-V3台に対しプロローグが1台売れるといった割合だった。インセンティブが重なり、実質的に販売価格が同水準になったことが一因という。

プロローグの魅力の多くはその平凡さだ。インセンティブや四輪駆動などのオプションを適用しないベース価格は4万7400ドル(約725万円)で、ブルームバーグ・インテリジェンスによると、米国の全車両の9月の平均市場価格を400ドル下回る水準。

多くのEVとは異なり、プロローグのパフォーマンスは誰もを驚かせるものではないが、ホンダファンが愛するような高水準かつ考え抜かれたディテールを備えている。センターコンソール下の巨大な収納スペースや大型サンルーフ、特大のスマートフォン充電パッドなどだ。

一方で、他のホンダ車とは異なり、プロローグはガソリンスタンドのほか、ほとんどの場合、整備工場にも行く必要がない。全米自動車協会(AAA)によると、オイル交換やエアフィルターを必要としないEVは同等のガソリン車よりも毎年の維持費が1000ドル近く少なくて済むという。

ホンダはすでに最も信頼性の高い自動車ブランドの1つであり、さらに信頼性の高い新車をラインアップに加えることは、エンジニアリングの巧みな芸当と言えるだろう。

ホンダの広報担当者、ナタリー・クマラトネ氏によると、プロローグ購入者は選んだ理由としてブランドへの信頼、次に価格を挙げたという。またプロローグ購入者の約3分の2は以前にもホンダ車を所有していたほか、約80%は今までEVを所有したことはなかったと答えた。

原題:Honda’s New Electric Vehicle Is Quietly Creeping Up on Tesla(抜粋)

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2024 Bloomberg L.P.