合併・買収(M&A)について企業に助言するバンカーは、ドナルド・トランプ氏がホワイトハウスに復帰することで、これまで予想していたよりもさらに多くの新規案件が持ち込まれることに期待を寄せている。債券引き受けの担当者も恩恵を受ける可能性がある。

トランプ氏は、反トラスト法(独占禁止法)を理由に一連の企業買収を阻止してきたリナ・カーン米連邦取引委員会(FTC)委員長に代わる新委員長を指名するとみられている。後任の委員長は恐らく、大型買収に対してより友好的だろう。

買収の多くは負債で賄われる可能性が高い。加えて、法人税の引き下げなどトランプ大統領のビジネスフレンドリーな姿勢は、すでにプライベートエクイティー投資会社によるレバレッジドバイアウト(LBO)の復活を後押ししている追い風に拍車をかける可能性があり、債券発行が一段と増えそうだ。

同時に、ローンの金利は公開、私募両方の市場で低下している。

ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループのレバレッジドファイナンス世界責任者、ロブ・フラートン氏は「シンジケート市場もダイレクト市場も取引に必死だ」と述べた。「ローン市場も債券市場も流動性が非常に高い」と付け加えた。

 

同氏によれば、失業率とインフレ率の改善により米経済環境は来年に向けてすでに好転している。「新政権が誕生することになった今、市場はよりビジネスフレンドリーな規制環境を期待している。これはM&Aにとって良いことだ」と同氏は述べた。

しかし、取引を成立させるにはまだ障害がある。トランプ氏の勝利を受けて株式相場は急上昇した。買い手は通常、標的企業が最高値の時に買収をしたがらない。

また、債券市場での資金調達も割高になっている。トランプ氏の勝利後、米国債市場は売りに押され、利回りは数カ月ぶりの高水準に達した。米大統領に返り咲くトランプ氏は、輸入関税などインフレをもたらす政策を支持するとみられ、ウォール街のエコノミストは米利下げ観測を後退させている。

ウェルズ・ファーゴのレバレッジドファイナンス共同責任者、トリップ・モリス氏は「LBOスポンサーによる買収活動が活発化するという希望は、以前からあったが、企業の売買にまつわる根本的な課題が、それほど変わったかどうかはわからない」と話した。

2024年のLBOの動きはすでに昨年より改善している。ブルームバーグがまとめたデータによると、プライベートエクイティー投資会社は今年、少なくとも940億ドル(約14兆3000億円)の米上場企業の買収を発表しており、23年の同時期から63%増加している。

プライベートエクイティー投資会社の間では、ディールに対する需要が高まっている。投資会社は企業買収によって資金を有効活用する必要があり、また、投資家に資本を還元するために保有企業を売却するプレッシャーにもさらされている。

同時に、シンジケート市場とダイレクトレンダー(直接金融業者)の間の競争は借り入れコストを押し下げる。

社債市場ではハイイールド債と投資適格債の両方でリスクプレミアム(スプレッド)が縮小しており、借り入れコストは他の市場よりも若干安くなっている。

トランプ氏の勝利により反トラスト法の圧力が弱まりそうな今、選挙が終わるまで傍観していた企業が案件を進めることを決めるかもしれない。例えば、クアルコムは11月の選挙が終わるまで、インテル買収計画を推し進めるかどうかの決断をしないことにしていた。

ウォール街は期待を抱いている。ジェフリーズのフラートン氏は、25年後半は21年のようなM&Aブームになるかもしれないと予想している。テクノロジーやヘルスケアなどの成長セクターが焦点になる。「ジャンボLBOがかなり出てくると思う」と同氏は述べた。

原題:Coming M&A Wave Will Be a Boon For Debt Bankers: Credit Weekly(抜粋)

--取材協力:Neil Callanan、Ben Scent、Yiqin Shen.

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