事故後も後絶たない飲酒運転 厳罰化は
【取材後記 TUF記者・吾妻康弘】
裁判を取材して、危険運転致死傷罪の適用範囲について現在の法律では課題が残ると感じた。危険運転をめぐってはこれまで「飲酒運転」や「高速度」が成立のポイントになるケースがみられるが、今回の場合、「飲酒運転」は道路交通法上の酒気帯び運転、そして「速度」については事故があった交差点に進入した速度が時速70キロと法定速度を超えるスピードだったものの、高速度とまでは言い切れないことから、「赤信号をことさらに無視した」という点に絞って危険運転致死傷罪の立証が展開された。そして事故前の運転状況、道路状況、池田被告が事故現場にほど近い場所に住んでいて現場の道路事情を把握していたことなどから、証拠を積み上げ、危険運転致死傷罪が成立するという判決に至った。しかし、被告が初犯であることや死亡した被害者が1人だったこと、そして、他の危険運転致死傷罪の判決との比較から求刑からの減刑につながった。
このところの裁判では、危険運転致死傷罪を認定されないケースも見受けられる。被害者に全く落ち度がないのに、無謀な運転による「走る凶器」で危険にさらす行為は後を断たない。「より厳罰化が必要だ。」今回の被害者の家族や、裁判を傍聴したほかの危険運転事故の被害者家族は危機感を募らせている。
しかし、こうした事故があった福島県郡山市でも今年の酒気帯び運転の検挙者の数はすでに去年1年間の検挙者数を上回り、後を断つことができないでいる。飲酒運転は「自分は大丈夫だ」「見つからなければいい」と思っている人が未だにいるのだろう。その意思でハンドルを握ることが全く落ち度のない他人を傷つけるだけでなく、自分の家族を含め多くの人を不幸のどん底に突き落とす、極めて悪質な犯罪であるという認識を持たなければならない。
法廷で意見陳述をした、亡くなった女性の母親の悲痛な警鐘が耳に残る。「自分の命より大切な命、未来は一瞬で壊された。この事故を軽く見たら、また新たな犠牲者が出るかもしれない。」
歯科医師になる夢の扉を開こうとしていた被害者の19歳の女性は故郷、大阪から離れた東北の地、郡山市で未来を断たれた。現場となった交差点近くには事故後、多くの献花などがあったが一旦、撤去されていた。しかし、裁判があって再び花が手向けられている。この事故を気に病む市民も多い。被害者家族にとって郡山市、そして福島県は大切な家族の命を奪った土地。事故を風化させないために重く受け止め、飲酒運転そして無謀な運転をどれだけ減らすことができるか。県民全体に問いかけられていると感じている。
もう一度、言いたい。そのハンドルの先に大切な誰かの命、そして自分の大切な家族がいることを。