福島県内で長く愛される老舗の今を伝える「老舗物語」。今回は富岡町で100年近く続く居酒屋が震災と原発事故を乗り越えて復活した歴史をたどります。

夕方の時間帯から家族連れや常連客でにぎわう店内。ここは、富岡町の居酒屋『旬香酒房かどや』です。

国道6号沿いに面する店の外観は新しく一見、老舗には見えませんが、かどやには、苦難を乗り越えた歴史があります。

--菊地義一社長(旬香酒房かどや)「旧道がこういう風な形になっていて、ちょうどそこの角の所にあったから“かどや”というお店にしたんだと思います。」

店の歴史を説明するのは、かどやの3代目・菊地義一さんです。

1935年、義一さんの祖父が富岡町で始めたうどん店。交差点の角にあるという立地から店の名前を「かどや」と名づけました。

その後、店はうどん店から食堂へ。さらに3代目の義一さんの代で居酒屋に形を変え、富岡町で「かどや」の屋号は代々受け継がれてきました。

居酒屋は、東京の和食店などで修業を積んだ義一さんが手がける本格的な料理が売りの、町民に愛される人気店でした。

しかし…震災と原発事故で富岡町は全町避難を余儀なくされ、一時は、店の歴史が途絶えることも覚悟したといいます。

--菊地義一社長(旬香酒房かどや)「その瞬間はもう将来とか未来とかそういうことは一切考えないですよね。」

最初は、自分たちの生活を守ることで精一杯でしたが、避難生活を続ける中、義一さんの心に変化が現れます。

--菊地義一社長(旬香酒房かどや)「みんなが富岡に帰って仕事をしている姿を見て、私も富岡に戻ってやってみようかなという感じになったんですよね。」

かどやは震災から2年後、いわき市で店を再開。さらに、2020年には、地元・富岡に戻り震災前と同じ場所で店を再開させました。

再開した店で義一さんと一緒に厨房に入る妻のみゆきさん。当時、富岡に帰るという義一さんの選択を後押ししました。

--妻 みゆきさん「一緒に帰った方がいいんじゃないという話は前からしていたんです。友達がこっちでホテルをやりだしたので。私らも終活するためにどこで生活して、どこで死んでいくかを考えると元あったところ自分が育ったところに帰るのがいいんじゃないのという感じですかね。」

そんな店の自慢は、地のものを使った海鮮料理。

こちらは「ひらめの薄造り(1200円)」。相馬沖で獲れたヒラメは新鮮で甘みがありポン酢との相性は抜群です。

網の上であぶっているのは常磐沖で獲れたアナゴ。シャキシャキのキュウリと一緒に甘ダレをかけていただきます。

義一さんが作る絶品料理を求めて、この日も町内外から常連客が訪れていました。

--地元の常連客「ここが一番最初だったからできたのが。便利というか良かったなと。飲める場所ができたので。優しい感じとかマスターの料理とかが楽しみで大体、週2日3日、多いときで4日5日、ほぼ毎日だね。」

こちらの家族は、いわき市に店を構えていた時からの常連。今回は結婚記念日で訪れました。

--いわき市から来た家族「一時(いわき市)平でやっているときに知って、そっちにいっていたので。魚も肉も何を頼んでもおいしい。」

最初は復興半ばの富岡町で客が入るか不安だったという義一さんですが、いまでは平日でも席がほぼ満杯になるほど、町に無くてはならない店となりました。

--菊地義一社長(旬香酒房かどや)「大きな目標はなくて、このまま私がどれだけやっていけるか。このままで続けられればいいなと思っています。」

店を次の世代につなぐことはまだイメージできていませんが、義一さんは、夫婦で地元の夜を照らす居酒屋を今後も続けていきます。

『ステップ』
福島県内にて月~金曜日 夕方6時15分~放送中
(2025年7月24日放送回より)