「これから懲役だ ぶっ殺しちまった」
事件当時、男は「Aを殺してしまったよ。薬のことでもめて。早く来てくれよ」などと自ら警察に通報していた。その後、友人に対しても「ごめん、これから懲役だ。Aぶっ殺しちまった。Aやっちまったことは本当に申し訳なく思う」などとメッセージや電話をしていたという。
それが、一転しての「無罪」主張。
犯行時、男は覚醒剤を使用していて、裁判では以下の2点が争点となった。
①殺意の有無
②責任能力の有無(「心神喪失」か「心神耗弱」か)
「心神喪失」…善悪をまったく判断できない→無罪
「心神耗弱」…善悪の判断が著しく低下している→減刑
弁護側、検察側の双方の主張は真っ向から対立した。

【検察側】
①殺意の有無
頭部などの急所を狙って、金属バットで何度も殴っていて殺意があった。
②責任能力の有無
男は自ら通報し、臨場した警察官に対して「Aを手や足、バットで殴った」などと言っていて、目の前の事実を正しく把握した上で、状況に応じた行動を取っている。また、犯行後の友人への連絡では、行為の違法性も認識している。男は、精神障害の影響を著しく受けていたが、正常な精神作用によって罪を犯したといえる部分も残る「心神耗弱」であった。
【弁護側】
①殺意の有無
凶器のバットはたまたまそこにあったもので犯行にまったく計画性はない。Aさんとはトラブルもなく、殺害する動機もない。殺そうと思って殺したのではなく、結果として死亡させてしまった。
②責任能力の有無
友人の頭部や顔面が変形して、平らになるまで殴り続けるのは、男が自身の行動をまったく制御できなかったため。精神障害の圧倒的な影響によって罪を犯し、正常な精神作用によって罪を犯した部分が残っていなかった「心神喪失」である。
事件現場は、壁やカーテンに血が飛び散っていた。頭部多発損傷で亡くなったAさんの遺体は、見るに堪えない状態だったという。あまりにも残忍な犯行。現場で何があったのか。
男が被告人質問で証言台に立った。