避難所閉鎖へ「俺たちは邪魔なのか」
震災から約1ヵ月が経ち、市から二次避難の案内があった。学校再開へ向けて避難者に退所をお願いすることを意味する。齋藤さんは、地域住民に対して直接説明を試みるも「俺たちは邪魔なのか」と問い詰められた。

「邪魔ではありません。みなさんと一緒に生活してきて、私もつらいんです」
学校を再開して生徒に学びの場を提供するのも齋藤さんの「役割」だった。避難者も、これまで生徒が避難所運営の手伝いをしてくれたことを鮮明に記憶していた。
「あの子たちのために気持ちよく出ていきたいね」
避難者からはそんな声がすぐに上がった。
「ごめん先生、言い過ぎた。自分の怒りを誰かに聞いてほしかったんだ」

避難者は徐々に石巻西高を後にした。去っていく人々は齋藤さんに握手を求め「ありがとう」と声をかけた。避難所が学校に戻っていった。
震災の記憶がフラッシュバック 生徒の心の傷
学校再開後も震災の影響は色濃かった。震災から半年後、防災無線から市の広報が流れた際、2人の生徒が過呼吸で保健室に運ばれた。震災当時の体験がフラッシュバックしたとみられる。

心のケアが必要と考えた齋藤さんは約500人の生徒全員にアンケートを実施した。半年ごとに同じ質問を投げかけたが、発災から1年半が経っても「ときどき自分を傷つけたくなる」の項目にあてはまる生徒が20人~30人いた。

「担任の先生たちには『クラスに1人、2人は自分の命の意味を見つけかねている生徒がいるからね』と話し、優しく温かく寄り添って見守ってと言いました」

一方で、「人とのつながりが大切だと思う」の質問には6割以上の生徒が、「つらいことがあっても乗り越えられると思う」には4割以上の生徒があてはまると答えた。あの震災を経験していながら、前向きになろうとする生徒の心の動きが垣間見えた。