「この場所で笑えない」生徒にぶつけた本音
震災の翌年、齋藤さんは石巻西高の校長になった。“校長の話”で、体育館の檀上から生徒に語りかけた。
「僕はこの体育館で笑えなくなりました」
本音だった。しかし、アンケートで見えた未来に進もうとする生徒の力を信じたかった。

「教員に限界はあるけれど、君らが前に歩いてくれれば僕らは頑張れる」
この日から“生徒を育てるのは生徒”という合言葉が学校に浸透し始めたという。
文化祭で生徒からのサプライズがあった。生徒は自分たちの笑顔700枚で制作したモザイクアートを体育館に貼り出した。齋藤さんの似顔絵だった。

「自分たちは遺体安置所だったこの場所で体育の授業をするんです。楽しい高校生活を送り、笑って卒業したいんです」。そんなメッセージを受け取った齋藤さんの目からは涙があふれた。
「生と死に向き合った子どもたちから、我々教師が乗り越える力をもらいました」
亡くなった11人の生徒に誓う“人生の役割”
石巻西高校の敷地内には震災を記録する石碑が建てられ、そこに11枚の石板が並んでいる。犠牲となった在校生9人と新入生2人を表している。

「新入生2人には席を用意して入学式で呼名をしました。名前を呼んであげるんです。合格したわけですから。石巻西高の生徒です」

志半ばで命を絶たれた生徒たち。同じ悲劇を生まないように、齋藤さんはつらかった経験も避難所の教訓も語り継ぐと決めた。「よく先生頑張れますね」と周りからは言われるが、誰かがやらなければ忘れられる。誰かがしなくちゃいけないなら自分がやろうと立ち上がった。

「この子たちの思いを絶対伝える。これが僕の人生の役割だと思っています」