テレビで映されるような「恐怖だけではなかった」現場

【画像⑨】

山口さんは事件のあと、立ち上がった女性と会話をする機会があり、その時女性の心境を尋ねたそうです。

その女性は事件小説が好きで『事件を起こす側の気持ちが分かる気がして、少年に『寄り添った行動を取った』と、山口さんに説明したと言います。

ちなみに筆者(RSK山陽放送記者)は当時、少年と同じ高校生(2年生)でした。岡山県で事件の状況をテレビを通じて見守っていました。自分と同じ年の少年がこのような事件を起こしたーーーショックとともに、テレビ中継で映し出される状況に恐怖を感じていました【画像⑨】。

しかし山口さんは、バスの車内は「テレビに映っていた恐怖だけの状況ではなかった」と話します。

山口さんは、少年が、身代わりを申し出た女性が、少年に寄り添った対応をとったことを敏感に感じたと振り返ります。それが影響したのか、少年側から女性に「何か欲しいものがあるか?」と尋ねたということです。

(山口由美子さん)
「女性は乗客全員のことを考えて、食べ物や飲み物、それから簡易トイレ、(当時)5月といっても夜は寒いので、毛布を要求してくれました」

少年は、警察に電話でそれらを要求し、その後バスに届けられました。食べ物や飲み物などが届けれた時、少年から「次はお前の番だ」と言われた女性も、乗客にそれらを配ったということです。

「本当に、テレビで外から映している状況は『恐怖』だけしか伝わらなかったかもしれませんが、バスの中ではそういう交流もありました」

事件発生から十数時間後、広島県内で警察の特殊部隊(SAT)が突入し、少年は逮捕されました。山口さんは救出され、広島県内の病院で緊急手術を受け、一命を取り留めました。

【画像⑩】



山口さんが救出されるまで、バスの車内で、少年の心の中で色々な動きがあったと振り返ります。それはいったい、どういったものだったのでしょうか。

【第2話】「あの時、死んどけばよかった」知人は刺されて亡くなった
に続く

▶この記事に関する【画像】はこちらからご覧いただけます。

【第3話】背景にあったのは少年の“いじめと孤立”「誰にも話を聞いてもらえんかった。辛かったと思う」
【第4話】事件から5年後 面会した少年から語られた「言葉」とは