来店者「雰囲気もいいし、とってもふわふわで美味しいです」

2月、築80年を超える古民家を改装した飲食店が熊本県益城町にオープンしました。

広さは約300平方メートル。60席ほどある店内では「シフォンケーキ」や「きな粉餅」などのスイーツを楽しめるのですが…

看板メニューは…うなぎ!

せいしゅう 小林正博 代表「この水だったら うなぎをしたらお客さんにもいいものを提供できるんじゃないかなと」

小林 正博(こばやし まさひろ)さん(67)。知人から紹介されたこの土地に店を作りました。

小林さん「そこから湧き出ている水が本当にきれいだったんです。ここはいいなと」

益城町赤井地区には、知る人ぞ知る「赤井水源」があります。湧き出る水は阿蘇の伏流水。地域の人たちが生活の一部として使っています。

地元住民「みんな近くの人が野菜なんか洗いに来るよ」

そんな水源のそばにあったのがこの建物。熊本地震で被災した後に修復されたものの、空き家状態が続いていました。

庭には水源の湧き水が流れ込む池があります。

小林さん「単純にすごい家だなって。これだったらやるしかないと」

自信満々に話す小林さん。実はスゴ腕料理人です。「日本庖丁道大草流(にほんほうちょうどうおおくさりゅう)十六代目家元」という肩書を持ち、9年前には包丁技術で「現代の名工」に選ばれたお方!

さらに、自ら立ち上げた料理の学校では校長を務め、多忙極まりないそうですが、2023年で料理の道に入って50年。「料理人人生の集大成にしたい」と、イチから店を始めることに。

小林さん「根っから料理が好きなんでしょうね。きついとかそんなのよりも楽しさが先立つ」

集大成の店を手伝うのは家族。店長は三男の政貴(まさたか)さん。県内で和食や洋食の経験を積んでいましたが、父のために辞めてきました。

オープン3日前、小林さん親子は甲佐町から仕入れたうなぎを店を流れる小川に移します。

小林さん「今おなかに入っているエサを全部出してしまう。出した方が臭みも残らない。あとは腕次第」

水源の湧き水が入り込む天然の生け簀、最高の環境なのです。

この日は、店の顔である看板づくり。孫たちに任せます。華蓮(かれん)さんは、書道5段。

小林さん「生涯残るやつだけん」
華蓮さん「え~、プレッシャー」

一発勝負で書いた文字の出来栄えは?
小林さん「字も満足だし華蓮が書いたことにも満足だしね」

お次は食材の仕入れ交渉。地域で作っている農産物について詳しい人のお宅を訪ねました。

小林さん「ダイコンやホウレンソウを(水源で)洗っていた人がいて、そういうのを分けてもらいたい」

地元住民「私達も無農薬野菜をままごとみたいな感じで栽培しています。でも本当に赤井地区に来て頂いてありがとうございます」

そうして、作ったのがこのメニュー。小林さんの集大成への思いを込めた「上うなぎ御膳」です。

メインはもちろんうなぎのかば焼き!熊本産の醤油や赤酒を使ったタレで甘さひかえめ。ふわふわ食感。うなぎの旨さを引き立てます。

蒸し野菜には、小林さんの包丁の技が光ります。

それらの品々を引き立てる米や漬物は地区の人たちが作ってくれたもの。

赤井地区の味を詰め込んだ「御膳」が完成しました。

迎えたオープン当日。

小林さん「こっちがちゃんとやっていけるかな、お客さんが来てくれなかったらどうしようかなって」

心配には及ばず、お客さんは次々とやってきました。しかし、注文が入り始めると厨房は慌ただしい様子…

ーーあれ?玉ねぎはどこ?
小林さん「そっちそっち」
ーーデザートのフォークって小さいのしかなかった?
小林さん「なかったかもしれん…」

ですが、さすがスゴ腕料理人。お客は大満足です。

来店者「おいしかったです、びっくりしました」

来店者「建物にびっくりしました。外の池もいいですね」

料理人人生50年、集大成と決めた店はひとまずスタートを切りました。

小林さん「今までの集大成を少しでもお客さんに対して料理というのを通じて伝えたり、あとは次の代にうまくバトンタッチできれば。…10年間はそうは言っていられないでしょうね」