熊本県内の路線バスや路面電車で全国交通系ICが利用できなくなることが明らかになり、利用者に戸惑いが広がっているようです。その背景には厳しい経営状況がありました。

一方で、路面電車がある熊本県外ではこの方針に対する『理解』を示す自治体もあります。

「使えなくなると困る」

県内の路線バスでは、早ければ2024年にも全国交通系ICでの決済ができなくなることが明らかになりました。

九州産交バス 岩﨑司晃社長「全国交通系ICカードの代わりにクレジットカード決済が対応可能な読み取り機器の導入を目指す方針となりました」

バス事業者には、5月29日までに「全国交通系ICが使えなくなると困る」「学生にクレジットカードは持たせられない」など、決済方法の変更に関する問い合わせや意見が30件以上寄せられています。

費用面で「苦渋の決断」

全国交通系ICでの決済廃止の背景にあるのが、バス事業者の厳しい経営状況と決済機器の高額な更新費用です。

共同経営する県内のバス事業者5社はコロナ禍以降、毎年約40億円の赤字を出しています。この状況で、全国交通系ICの機器の更新には、約12億円が必要になります。

一方で、全国交通系ICを廃止してクレジットカード対応の機器を導入した場合、費用は6億7000万円に抑えられるということです。

利便性の低下は否めませんが、経営への負担軽減と運行維持を優先した形です。これには熊本市の大西一史(おおにし かずふみ)市長も次のように述べました。

大西一史 熊本市長「非常に厳しいなというのが率直な思いです。交通事業者の決断というのは私は苦渋の決断であったと思います」

今後は、新たな決済方法の周知が課題となります。

他の地域は? 

そして熊本市では、将来的に路面電車の熊本市電も全国交通系ICでの決済ができなくなることが明らかになりました。

他の地域の路面電車やバスをめぐるIC決済事情はどうなのか?路面電車がある2つの市に聞きました。

愛媛県松山市の場合

愛媛県松山市は、今年3月に市内の路面電車と空港リムジンバスで全国交通系IC決済を導入しました。熊本市とは逆の動きです。

運営する伊予鉄(いよてつ)グループは、導入の理由について「利便性の向上で地域を盛り上げたい」としています。

長崎市の場合

長崎市では、今の熊本と同じ全国交通系ICと地域限定型ICカードが使える状況です。

長崎市は「全国交通系ICの普及を進めたい」としていて、「地域限定ICカードが使えるバス会社が限られているので、全国交通系ICが使えた方が有利」と考えています。

地域限定ICカードについては、熊本の場合は『くまモンのICカード』があります。バスでの利用率は51%です。

長崎市の担当者は「この普及の状況を踏まえた場合、全国交通系ICでの決済を廃止するという熊本市での動きはおもしろい試み」と話し、理解を示しました。