「市民の台所」として長年親しまれてきた福岡県北部にある商店街が2022年、火の渦に飲み込まれ焼け落ちた。旦過市場(北九州市小倉北区)は同じ年に1度ならず2度も大火を経験し、甚大な被害を受けた。最初の火災は原因がはっきりしないものの、2度目は「処理剤を入れた天ぷら油の加熱」が疑われるという。大火から半年、失火元に対する警察の捜査は大詰めを迎えている。一方、「教訓」として始まったのが“防火指導”だ。9割の店舗が火災につながる要因が潜んでいないか点検を受けた。しかし、残る1割は店側の「忙しい」などの理由で手つかずだ。来年度の予算措置もないまま指導員の任期が終わろうとしている。
◆「必要な注意を怠った可能性」業務上失火罪で立件へ

2022年8月、旦過市場一帯は真っ赤な炎に包まれた。4月にも同様の大規模火災が発生していた旦過市場一帯では、2度の火災で計90店舗近くが焼けた。

直近の8月の大火で火元とみられているのは、市場に隣接する旧「新旦過横丁」の飲食店だ。横丁の飲食店に関係する女性は当時「使用済みの天ぷら油に処理剤を入れ、加熱したまま放置していたら炎が上がった」などと話したことが取材でわかっている。警察は、火の安全に注意すべき立場だった女性が、必要な注意を怠った可能性があるとみて業務上失火の容疑で書類送検する方針だ。その捜査は大詰めを迎えている。
◆潜む火災リスク、指導員が洗い出し

「同じように火災リスクのあるところが多い。この機会に防火の指導をきっちりすべきだ」北九州市の北橋健治市長にとって、是が非でも「3度目」を起こさない施策は必然だった。2000万円をかけて「防火指導員」を各区に2人ずつ置いた。
防火指導員「換気扇を掃除してください。羽に油がついているから」

市内には木造の飲食店が約650軒ある。防火指導員は同じ店を半年間におおむね2回のペースで訪れる。人員は、退職した消防職員を再雇用してあてた。狙いは“火だね”つぶし。消火器がない店には置くよう指導し、店内に火災の起きる要因が潜んでいないか隈無くチェックするのだ。
防火指導員「前回は消火器がありませんでした。置いてくださいと話すと、さっそく買われたようだったので効果はあったと思います」
指導員の取り組みは、飲食店からも「予防の重要性を思い出させてくれる」と好意的に受け止められている。一方で、課題もあった―。







