「この日を待ち侘びていた―」農家の目に映るのは頭を垂れた稲穂。5年前の豪雨で農地がめちゃくちゃになり、それ以来、稲作はできなかった。復旧が一段落して初めての収穫を迎えたのだ。一方で、再び被害にあわないように5メートルほど盛り土された田んぼは、水はけが悪く、土手は崩れやすいという課題を抱えていた―。
◆災害から5年、ようやく稲作ができるように

福岡県南部の朝倉市。山の奥に進むと日本の原風景と形容すべき田んぼが視界に飛び込んでくる。谷地のせいか、訪れた記者の携帯電話は電波を掴まなかった。あたりには川が流れ、木々が茂っている。10月に入り、こんなのどかな場所に黄金色に実った稲穂が現れた。黒川地区で長く農業を営む林利則さんは、この日を心待ちにしていた―。

農家の林利則さん「粒は大きくてきれい。量も質もいいので当然、味もいいはずです。待ちに待ったものができあがりました!」
今では爪痕を探す方が難しくなったこの一帯は、5年前に壊滅的な被害を受けていた。九州北部豪雨だ。

黒川地区に設置された雨量計は当時、9時間で774ミリの雨を観測。住宅や農地は濁流にのまれた。豪雨によって福岡県と大分県で40人が死亡、2人の行方が今もわからない。

あれから5年、ようやく米作りが再開できたという。台風で一部は倒れたものの、出来は上々のようだ。もちろんすべてが順調ではない。田んぼを見渡すとブルーシートをかけた場所が至る所にあった―。
◆新しく作った土手が崩れてしまう
林さん「土手に水が流れ込むと、隙間があるから流れていくんですよ。ちょろちょろした流れ方でも、ある時期になるとどさっと崩れます。土嚢を積んでいましたが、間に合わなくて、緊急的にブルーシートを張りました」

林さんによると、復旧された農地は5メートルほどかさ上げされた。土手も新しく造られたが、石混じりで水が染みやすいという。土のうやビニールシートで対策しなければならないほど水が漏れやすい一方、田んぼの方はなぜか水はけが悪い。

林さん「水が引かないからコンバインを入れたら埋まってしまい刈り取れないんです。もう収穫はしません」
待ち侘びていたはずの稲穂の一部は刈り取らずそのままにされていた。