歴史的遺物の返還という新たな課題

童増氏が遺した問題は、賠償問題だけではありません。最後に、彼が熱心に取り組んだ歴史的遺物の返還問題を紹介したいと思います。

童増氏が返還を求め続けたのは、「鴻臚井碑(こうろせいひ)」と呼ばれる石碑です。この碑は、7~10世紀に東北アジアに存在した渤海国と当時の中国の王朝・唐の関係を伝える史料で、重さは90トンにも及びます。

1908年、日本海軍が日露戦争後に激戦地だった中国東北部の旅順から運び出し、戦利品として明治天皇に献上したものです。現在も東京の皇居・吹上御苑に存在し、日本政府は国有財産として返還に応じていません。

この石碑もまた、日中間の賠償問題と同様に、歴史的トゲとして今後浮上しかねません。

一人の反日活動家の死から、歴史問題や賠償問題の根深さを考えました。上々の滑り出しを見せた高市総理の外交ですが、日中関係が将来こじれると、こうした歴史問題が中国側から再び浮上する可能性を、私たちは忘れてはいけないでしょう。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める