ロシアがウクライナの東部や南部、あわせて4つの州の一方的な併合を宣言してから9月30日で3年となり、プーチン大統領は4州の掌握を目指す姿勢を改めて示しました。

そのウクライナで30年以上暮らしている日本人男性は、「日常の中で手足や目、体の一部を失った人に出会う」現実を語り、日本にも厳しい視線を向けています。

神戸出身でウクライナ在住30年を超える江川裕之さん(62)。
ソ連崩壊前の91年秋から首都キーウで暮らしています。
キーウ国立言語大を卒業後、通訳を経て、現在はタラス・シェフチェンコ記念キーウ国立大学で上席講師を務めています。
ウクライナ人の妻(55)と長女(23)・長男(20)という家族構成です。
自宅窓から、ロシアによる攻撃で上がった黒煙を確認するほか、アパートの玄関に破片が当たり、破壊されたこともありました。
学生や同僚が志願して戦場に赴き、命を落としています。

Q 戦闘が長引き「ロシアに譲歩して終結させる」という考えはウクライナで広がっていませんか
ウクライナ・キーウ在住 江川裕之さん
これは侵略戦争です。
日本で非常に誤解されていると感じます。
「ウクラナが戦争をやめればよい」と考える人もいるように感じますが、それはとんでもない話です。
ウクライナは一方的に侵略されている国です。
平和を取り戻すためには相手、「ロシアが撤収すべき」その一点です。

Q トランプ大統領による仲介に期待は持てますか
ウクライナ・キーウ在住 江川裕之さん
バイデン政権時代のような「生殺し」にされるよりはトランプ大統領は何か変化をもたらしてくれるのではないかと期待していました。
しかし今やトランプ氏は「やったもん勝ち」「イメージ戦略」で、仲介に乗り出してきている印象です。
経済制裁をするのだったら、もっと強力にやらなければならない。
今の経済制裁は生ぬるく、「のばしのばし」やっているようにしか見えません。
経営者や政治家といった高給をもらっているエリートが「落としどころ」とか「現実的解決」といった言い訳を簡単に使わないで欲しい。
言い訳なら、誰でもできると思いませんか。
こういう状況でこそ行動・解決できなければ権力者の存在意義はないと思います。

Q 日本の外交で期待することは
ウクライナ・キーウ在住 江川裕之さん
アラスカでプーチン・トランプ大統領の会議が開かれた時に、ヨーロッパの首脳も集まり、ウクライナをサポートする姿勢を見せました。
残念ですがそこに日本の存在はない。
日本の代表者、石破総理も行くべきでした。
日本政府も一生懸命やられているとは思いますが、日本もいつ侵略を受けるかわからない、それくらいの気概と危機感で取り組んで欲しい。
それくらい世の中の情勢が変わっていると思います。

Q 日本もウクライナのように侵略される恐れがあるというのでしょうか
ウクライナ・キーウ在住 江川裕之さん
有事の恐れは北海道や沖縄だけの問題ではありません。
歴史的にみても北部九州も最前線だと考えてもよいのではないでしょうか。
この侵攻は、遠いヨーロッパの問題ではなくて、日本の隣国・ロシアがやってる戦争、侵略です。
日本もそのあたりのことは、もう少し正面から受け止めるべきだと思います。
ドイツやスイス、スウェーデン、フィンランドなどは、現実に即して政策を変えています。
これまで中立を保っていたところも、現在の世界情勢に危機感を抱いているのです。

Q 日本も平和に対する認識を変えるべきですか
ウクライナ・キーウ在住 江川裕之さん
日本は未だに「戦争を行なってはならない」と言っています。
もちろん戦争がだめだというのはウクライナの人たちが一番よくわかっていることです。
でも侵略を受けている立場で言えば、侵略を、戦争を早く終わらせるためには、全世界が、すべての国が立ち上がらなければならない。
日本は当事者であるというように、意識を変えていかなければならないといけないと感じます。

Q 一部の州をロシアに割譲して戦争を終わらせる選択肢はありませんか
ウクライナ・キーウ在住 江川裕之さん
仮に日本で、「九州と沖縄はあきらめて他国に渡します」、「九州、沖縄の皆さん、ごめんなさい」といって日本国が戦争を終結させる、そんな風に考える日本人は一人もいないのではないでしょうか。
国土の20パーセント以上にあたる、ドネツク州、ルハンスク州、それからザボリージャ州、ヘルソン州、ハリコフ州の一部、クリミア半島。
これらについてロシアはウクライナに返すつもりないでしょう。
しかし「割譲して紛争を止める」とはウクライナ人の誰も、そんな風には考えていないと思います。

Q ロシアが引かない限りは、この戦闘が続くということでしょうか
ウクライナ・キーウ在住 江川裕之さん
戦闘は続くと思います。
終わらないでしょう。
終わらない。
2014年以降、ヨーロッパの国々が仲介に入って一時停戦しましたが、その間も22年までドネツク周辺の前線では人が死亡し続けています。
国連の国際監視団が入っていても、です。
ウクライナの土地を不当に占領しているロシアが引かない限り、戦闘は終わりません。
ロシアの謝罪と賠償、それから非軍事化、民主化以外考えられません。
それからロシア人が、それはプーチンだけではなく、ロシア人全体が正しい歴史認識を持たなければ、戦争が終わることなく、続くと思っています。

Q 戦闘が続いても、決してロシアに屈してはならないということですか
ウクライナ・キーウ在住 江川裕之さん
最後に言わせてください。
ウクライナでは毎日、前線近くで沢山の人たちが命を落とし、負傷しています。
バスの中でも足のない人、目のない人、手を失った人、身近に数多くいます。
日本の皆さんにも、よくわかっていただきたい。
この戦闘を終結させるために、ロシアが変わらなくてはならないのです。

Q ロシアを変えるために日本ができることは
ウクライナ・キーウ在住 江川裕之さん
ロシアと商売をしない。
明確にウクライナに軍事援助をする。
ヨーロッパやアメリカの国々と一緒になって軍事的にも経済的にもロシアを締め上げていくしかないと思います。
1945年で日本が敗戦国となった戦争の構図と、今、ウクライナが受けている侵攻とは立場が180度違います。
ウクライナに対して「戦争を終わらせなさい」「諦めなさい」というのは道理が通らない。
我々は地球に生きる人類として道徳、公正さ、それを追求していくことだけが平和をもたらすと信じています。

Q 「ロシアに屈しない」ことで犠牲者がさらに増えることに心が痛みます。
ウクライナ・キーウ在住 江川裕之さん
2014年にドネツク空港攻防戦で1人、2023年に1人、2024年3月には女子学生1人、日本語を学んでいた私たちの大学の学生が戦死しています。
彼らは志願して戦場で亡くなりました。
教師も学生も悲しい思いをしています。
ですから私やウクライナの人たちが戦争を肯定しているとは思わないで下さい。
私たちこそこの戦いが早く終わることを強く願っています。


聞き手 RKB毎日放送 アナウンサー 下田文代

RKBラジオ「仲谷一志・下田文代のよなおし堂」(8月29日放送)インタビューから抜粋