「手活けの桜」が色あせる時

神戸: では、これはどうでしょう?「手活けの花」。
下田: ていけ……。
神戸: いけ花。自分自身で活けた花のことですね。転じて、おめかけさんのこと。
  「あいつぁ、俺の手活けの花だぜ」。
下田: まあ……。言う分は勝手です。おいたが後でとんでもないことになるかも。
神戸: ははは。
  「手活けの花」だったり「ちょい色」だったり、男性側の言葉ですよね。
  でも、熱(ほめき)盛りの江戸の人たちが、生き生きと感じられる言葉だな、
  という気がします。
下田: そして、自分を大きく見せるためにそういうことを言ったり、
   背伸びしたりしているようにも感じます。
神戸: 基本的に、口だけの人が多いはず。
下田: ははは!でも、今ちょっと無味無臭になりすぎている感じもあるので、
   江戸気質の艶っぽさが全てだとちょっと困っちゃいますけど、
   そういう気質を持つことはいいのかも。
神戸: 当時の人たちの感情や気持ちが言葉に残っている気がして、
   いいなと思います。

神戸: では、これはいかがでしょう。「桜褪め」。
下田: さくらざめ。桜ってチェリー?「ざめ」は……さめる?
神戸: そう!桜の花の色がさめる、浅くなっていく。
   色が移りやすいこと、恋心が変わりやすいこと。
   変わってしまったことを「桜褪め」。これは、きれいな言葉では?
下田: きれいで、切ないです。
神戸:「桜褪めしたあいつのこと……」なんて言ったりしたのかな?
下田: ちょっと切ない季節が巡ってくるかもしれませんね。

◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年生まれ。学生時代は日本史学を専攻(社会思想史、ファシズム史など)。
毎日新聞入社直後に雲仙噴火災害に遭遇。東京社会部での勤務後、RKBに転職。
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