「激動」の時代に”良心の灯”を絶やさない
九大共創学部3年の黒岩京太さん(21歳)は、中村さんのこの言葉を引用しました。

中村哲さんの言葉:「この激動の時代のまっただ中で、(中略)いったい人間全体がどこに向かおうとしているのかも、誰にも本当のところはわからない。しかし、だからこそ我々は時代を超えて変わらぬ良心の灯を輝かせ、今後も長期に亘(わた)る現実の格闘を通して、人間の静かなる告発者であり、同時に人間の弁護人・証人であり続けるだろう」(ペシャワール会報24号、1990年)
黒岩:今も激動の時代なんじゃないかなとすごく思います。お聞きしたいのが、「私たちが良心というものをどのようにして伝えていくのか」「そのためにどうあるべきか」。安田さんのお考えをお聞きしたいです。
安田:先ほど皆さんにお話した、イスラエルの高校教師メイール・バルヒンさんが逮捕されて、解放された後に、同僚や友人が声をかけてきたそうなんです。「あなたには共感するよ。でもね、私は仕事があるから。家族がいるから」。メイールさんは「そういう人たちを決して責められない」とおっしゃっていました。その社会にあって、もしも皆さんが、あるいは私がメイールさんの友人だったら、どんな行動を取るだろうか考えていました。安田:一方で、メイールさんが逮捕された時、すごく悪名高い留置所みたいなところがあって、その外でメガホンを持って「メイールを解放しろ」と声を上げた。すごく少数の人たちだとは思いますが、デモをした良心のあるイスラエルの人たちがそこにいたんです。「あのデモに加われる人間であれるのか」ということを、すごく考えました。

安田:それは、決して遠い話でなくて。もちろんイスラエル国内の問題かもしれないですけれども、国際社会の一員として日本は、パレスチナの人たちに対する暴力に様々な加担をしているわけです。それを「止めろ」と声を上げるのと同時に、良心を持ってイスラエルの中で声を上げた人たちを孤立させないことが私たちにもできることなのかな、と思っています。「実際、日本で自分の声がこうやって国境を越えて伝わったんだ」とすごく喜んでいらっしゃいました。
安田:本当に少しでもいいです。「こういう人がいるんだって。孤立させたくないよね」と、皆さんが身近な方と会話をしたり、広げたり。本当にじわじわかもしれないですけれども、良心の灯というものを絶やさない、むしろ広げていくということの土台になるんじゃないかな、と私は思っています。
中村哲さんの思いが会場に満ちて
「遠い日本でデモをしたり、スタンディングでプラカードを持ったりして何の意味があるのか」と言う人は結構いますが、無くなると存在さえ見えなくなるような気が私はするんです。ささやかでも、安田さんの言葉で言えば「じわじわ」かもしれないけれども、「良心の灯」を絶やさないと。これは確かに、中村哲さんの考え方だったんだろうと思います。学生と安田さんの対話を聴いていると、中村哲さんが会場にいるかのような感じがしてきました。
終わった後、主催者の一人である九大共創学部4年のレイク沙羅さん(22歳)に、お話を聞いてみました。

レイク:個人的にも福岡でデモを頻繁にします。なかなか理解を得られないこともあるんですけど、「良心に基づいた行動を取った人たちを、孤立させないようにしよう」というのは、自分自身も心が奮い立つ、励まされる言葉でした。「大切にしたいな」と改めて気付かされたことが大きいです。
レイク:もう一つ、「役割を持ち寄っていきましょう」。安田さんだからこそ思われてること、言えることだったんじゃないかなと思って、なんかうれしくて、ジーンとしています。
神戸:よかったですね。
レイク:はい、本当に来ていただいて、うれしかったです。

何人もの学生が、「中村哲さんが九州大学にいたことが、進学する理由だったんです」と言っていました。「うわー、中村哲さんって、やっぱりすごいな」と。彼のものの考え方は、現在に続いているなと思いました。
本当にじわじわかもしれないけれども、大切な思いをつないでいく学生がいることを伝えたくて、紹介しました。なかなか気持ちがよかったです。
◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年生まれ。毎日新聞入社直後に雲仙噴火災害に遭遇。東京社会部での勤務後、RKBに転職。やまゆり園事件やヘイトスピーチを題材にしたドキュメンタリー映画『リリアンの揺りかご』(2024年)は各種プラットホームでレンタル視聴可。ドキュメンタリーの最新作『一緒に住んだら、もう家族~「子どもの村」の一軒家~』(2025年、ラジオ)は、ポッドキャストで無料公開中。