◆生まれてくる子供が未来描ける世の中にしたい

子供の国籍については、彼らもどういった手続きになるのか、確かなことがわかっていないのだという。もちろん不安はあるのだろうが、「タイの祝日に生まれたら、タイ政府が特例でタイ国籍をくれることがあるらしい。だから妻と2人でお腹の子にがんばれよ~って声をかけてるんだ」と笑って見せる。本当にそんな制度があるのかは不明だが、やはりタイ国籍というのは彼らにとっては魅力的なようだ。改めて彼らが置かれている悲惨な状況を実感させられる。
「本当は結婚してすぐに子供が欲しかったんだ。でもコロナの流行で少し待たないといけなくなった。そしたら今度はクーデターが起きた。この状況はいつまで続くかわからない。それで私は、もう待つのは嫌だ、と妻に伝えたんだよ」。
アインの話に頷きながら、私は親戚でもないのに、生まれてくる子供が立派に成長する姿を思い浮かべていた。この2人の子なら、きっと優秀だろう。クーデターの影響などものともせずに成功し、幸せになってほしい、そう願わずにはいられなかった。そして改めて、子供がそんな未来を思い描くことができる世の中でなくてはならない、そうすることが我々大人の責任なのではないか、そんなことも考えた。(エピソード7に続く)
*本エピソードは第6話です。
ほかのエピソードは以下のリンクからご覧頂けます。
#1 川を挟んだ目の前はミャンマー~軍の横暴を”許さない”戦い続ける人々の記録
#2 野良犬を拾って育てる避難民
#3 農園の候補地を下見 タイ人の地主に不審者と間違われる
#4 治安の悪化のニュース そして深夜に窓を叩く音 恐る恐る外を覗くと・・・
#5 オクラを作ろう!ようやく動き出した事業
#6 アインの妻が妊娠 生まれてくる子供の未来は
#7 オクラの栽培がスタート しかし”目の前が真っ暗”に…支援とビジネスを両立する難しさ
#8 協力企業の撤退で振出しに戻った事業~日本にいる間に考えたこと
#9 違和感ぬぐえぬ、福岡市動物園ゾウの受け入れ
#10 農園での結婚式~困難の中にあってもそれぞれの人生を生き抜く人々
◆連載:「国境通信」川のむこうはミャンマー~軍と戦い続ける人々の記録
2021年2月1日、ミャンマー国軍はクーデターを実行し民主派の政権幹部を軒並み拘束した。軍は、抗議デモを行った国民に容赦なく銃口を向けた。都市部の民主派勢力は武力で制圧され、主戦場を少数民族の支配地域である辺境地帯へと移していった。そんな民主派勢力の中には、国境を越えて隣国のタイに逃れ、抵抗活動を続けている人々も多い。同じく国軍と対立する少数民族武装勢力とも連携して国際社会に情報発信し、理解と協力を呼びかけている。クーデターから3年以上が経過した現在も、彼らは国軍の支配を終わらせるための戦いを続けている。タイ北西部のミャンマー国境地帯で支援を続ける元放送局の記者が、戦う避難民の日常を「国境通信」として記録する。

筆者:大平弘毅