スポーツにとどまらない“中国の振る舞い”と関り

私は、今回の騒ぎの根っこは、単にスポーツの世界にとどまらないと考える。つまり、国際社会における、中国の“振る舞い”と関係ないようには思えない。

2012年のロンドン五輪で、2つの金メダルを獲った中国の男子競泳選手がその後の国内大会のドーピング検査で、トリメタジジンの陽性反応が出た。そして、3か月の出場停止処分を受けた。しかも、この選手は2018年、ドーピングの抜き打ち検査を妨害したとして、さらに4年間の出場停止処分を受けている。競泳のほかにも、中国は過去、陸上競技などにおいても、ドーピング違反を数多く犯してきた。いわば“前科”が多いから、疑いの目を向けられる。

さらに、過去のドーピング違反に加え、現在の中国という国家が、「国際社会共通のルールを守っていない」という目は、少なからずある。これは事実だ。南シナ海や東シナ海での海洋進出は分かりやすい。また、ウクライナへの戦争を仕掛けたロシアを多くの国が非難する中、そのロシアとのビジネスを活発化させ、ロシア経済を支えている。中国の競泳チームへのドーピング検査の徹底は、そんな国際社会からの目と連動しているようにも思えてしまう。

とはいえ、中国のファンは、やはり受け入れられないだろう。「中国だけが狙い撃ちにされている」「不公平だ。我々は見下されている」。――。中国のインターネット上にはそんな声があふれている。そこには近現代史において、「欧米や日本から食いものにされてきた」「自分たちはずっと被害者だった」という歴史に絡んだ感情も背景に存在する。そんな感情は「だから、強くなければならない」という、狭い意味での愛国主義と容易に結びついてしまいがちだ。パリ五輪では、競技会場の外でも、さまざまな“戦い”がある。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。