「狙い撃ち」のドーピング検査にネットユーザーが反発
実はパリ五輪で、中国国民の反発、とりわけネットユーザーの反発を呼ぶ事態が起きている。それは、禁止薬物への対策=反ドーピング。中国の競泳選手団に対するドーピング検査の在り方だ。ことの発端は、ドーピングの国際検査機関(ITA)が五輪開幕前、中国の水泳選手が今年に入って600回を超える検査を受けている、と会見で明らかにしたことからだ。
話は3年前にさかのぼる。2021年東京五輪の数か月前のことだ。やはり中国の競泳選手23人が、国内大会で採取された検体から禁止薬物が検出された。だが、この事実は伏せられ、中国の競泳選手は五輪出場を認められた。このことが今年4月になって、米ニューヨーク・タイムズなどの報道で明らかになった。
中国選手から陽性反応が出た薬物は、トリメタジジン。この薬物は、血流が増加し、持久力のアップに効果がある。このため、世界反ドーピング機関が定めた禁止薬物リストに載っている。ところが、中国の競泳選手23人が東京五輪前に、トリメタジジンの陽性反応が出ながら、東京五輪への出場が認められたのだ。
中国側は「選手宿舎のキッチンの汚染が原因だった」と説明している。確かに宿舎の調理場からは禁止薬物が検出されたという。このため、選手を処分せず、世界反ドーピング機関もこの説明を容認した。
話をパリ五輪に戻そう。中国の競泳チームがパリに到着して以降、10日間で延べ200人近くが、ドーピングの国際検査機関から、検査を受けていたことが明らかになった。このことが、さきほど紹介したように、中国メディアの不満を呼び、国民の反感を燃え上がらせた。
中国代表競泳チームの選手は男女で総勢31人。選手延べ200人近くに対してドーピング検査を行ったということは、平均すると、同じ選手が6回~7回も検査を受けさせられた、ということだ。ほかの国の代表選手に対する検査に比べ、突出している。中国競泳チームの栄養士が、中国メディアの取材に、このように答えている。
「選手31人のうち、毎日20人近くがドーピング検査を受けた。同じ選手が1日5回から7回のドーピング検査を受けたこともあった」
「ベッドで寝ている早朝6時に、ドーピングの検査員がやって来た。午後に休憩している時だって。さらには夜の9時を過ぎても、抜き打ち検査があるので、夜中まで寝ることができない。時差ボケや練習の疲労を感じているというのに、だ」
このコメントは、中国のメディアに載っていた報道からピックアップした。報道を読んだ中国の国民は当然、「なぜ中国だけ、不公平な扱いを受けるのだ」と怒りを募らせることになる。
それにしても、どうして中国の競泳選手に、ドーピング検査を繰り返すのか? パリでの記者会見で、中国のジャーナリストたちも、そんな疑問を投げかける。「トレーニングや休息に悪い影響を与えないか。多過ぎないか」という疑問だ。ドーピングの国際検査機関の言い分はこうだ。
「中国の競泳チームには『問題がある』という一部の報道がありました。我々はすべての国のアスリートを、安心させるため、検査を実施しています。オリンピックが公正かつ、公平であることを証明するための取り組みの一環です」
とはいえ、ただでさえ、観る方も熱くなるのが五輪。応援する中国の人たちはこの説明では納得できるだろうか?