不起訴になった3件も新たに公表

一方、林官房長官は今月3日の会見で、捜査当局が報道発表していない沖縄での米兵による性的暴行事件が2023年以降で新たに3件あると明らかにしました。今回の2件と合わせて計5件です。ただ、この3件はいずれも不起訴となった案件で、起訴された今回の2件とは、やや「非公表」の意味合いが異なります。

それを公表したのは、「また報道で明らかになれば隠蔽と言われる」という危機管理なのか、今回の2件、とりわけ去年12月に発生した少女暴行事件を地元に伝えなかったことが「決して特別ではない」と言いたいのか。私には、どうも後者の思惑が感じられます。政府には95年県民集会のトラウマがあって、被害者が少女の事件に焦点が当たるのを恐れたのではないか、と。まぁ、ひねくれ者の邪推かもしれませんが……。

結果として政府は今月5日、沖縄県内での米軍関係者による性暴力事件については、捜査当局が公表しないものでも、可能な範囲で政府側から自治体に情報を伝える運用に改めました。今回の2件の事件は、いずれも防衛省に情報が伝わっていなかったことが明らかになっていますが、新たな運用では捜査当局から外務省を経て防衛省と情報を共有し、防衛省から地元自治体に伝えるとしています。

また同じ日、沖縄県警も、米軍関係の性犯罪は、広報しない案件でも県にはできる限り情報提供すると、本部長から知事に伝えられました。林官房長官は「沖縄では、アメリカ軍人による犯罪予防の観点から、迅速に対応を検討する必要がある」と述べ、見直しの背景に今回の再発があったことを事実上認めました。

忘れてはならない「沖縄の現実」

ただ、それで良かった、とは、到底私は思えません。そもそも95年の事件を受けて、日米両政府は「公共の安全に影響を及ぼす可能性のある事件が起きた場合、沖縄防衛局を通じて県や市町村に連絡する」と決めていたのに、今回は守られなかったんです。30年という月日が教訓を忘れさせたのか、事件が明るみに出なかったら今もそのままだったのか、と考えると、かえって暗澹たる気持ちになります。

今年の「沖縄全戦没者追悼式」で、岸田首相は「今もなお、沖縄の皆様には、米軍基地の集中等による大きな負担を担っていただいています。政府として、このことを重く受け止め、負担の軽減に全力を尽くしてまいります」と述べましたが、2件の事件を知っていた首相は、どんな思いでこの言葉を語っていたのでしょう。

ただ、私自身、この2件の報道があるまで、正直、95年の事件も、その後も沖縄では米兵による性犯罪が相次いでいることも、考えることはありませんでした。その意味では五十歩百歩。2件を世に知らしめた地元メディアのジャーナリスト精神に敬意を表すると共に、今も「国土の0.6%しかない沖縄県に日本の米軍専用施設の約70%が集中している」現実を忘れてはならないと、あらためて突き付けられた思いです。私が「忘れてはいけないニュース」と言ったのは、そういう意味です。

◎潟永秀一郎(がたなが・しゅういちろう)

1961年生まれ。85年に毎日新聞入社。北九州や福岡など福岡県内での記者経験が長く、生活報道部(東京)、長崎支局長などを経てサンデー毎日編集長。取材は事件や災害から、暮らし、芸能など幅広く、テレビ出演多数。毎日新聞の公式キャラクター「なるほドリ」の命名者。