◆「誹謗中傷」も言論の自由?
もうひとつは「誹謗中傷」です。メディアに名乗り出た被害者に対して、誹謗中傷が甚だしく、中にはそれを苦にして自ら命を絶った方もいました。その家族のことも番組では報じられ、アザー記者は東山社長に「このことをどう思いますか」と質問したんです。
その答えに僕は耳を疑いました。「言論の自由というものもある」と言うのです。「別に誹謗中傷を推奨しているわけでもないけれど、その人にとっては正義の意見なんだろうなと思うときもある」と。
◆念頭に「組織防衛」があると思えてならない
「東山社長の心の中をきちんと見てみたい」という、モヤっとする気持ちが湧いてしまうドキュメンタリーでした。大きく3つの点が印象に残ったという話をしましたが、僕が最も気になったのは「誹謗中傷」についてです。
誹謗中傷を受けて自ら命を絶った被害者のことを踏まえて、BBCの記者から誹謗中傷する人への認識を問われたのに対し、東山氏は「言論の自由もある」「その人にとっては正義の意見」と答えています。
これは「被害者を名乗る人の中には偽者もいるから注意しましょう」と言っているに等しい。旧ジャニーズ事務所がホームページ(現在は閉鎖)で「被害者でない可能性が高い方々が、本当の被害者の方々の証言を使って虚偽の話をされているケースが複数あるという情報にも接している」と注意喚起を呼びかけていたことを思わせます。
たしかに、そういうこともあるのかもしれません。いや、きっとあるんでしょう。1000人もの人から連絡があれば、いたずらのような人たちも含まれているのだろうとは思います。ただ、被害者への補償を前面に出している会社で、「人生を賭けて」とまで言ってトップに就任した人物の言葉として、「軽いな」と僕は思いました。
東山氏の頭の中は、真っ先に被害者の救済、というのではなく、旧ジャニーズ事務所の「組織防衛」というのが、まず念頭にあるように思えてなりません。
◆空疎さに「何を見せられているんだろう」
リスナーの中には「またBBCか」「日本のメディアはどうなっているんだ」という意見を持っている人もいるでしょう。でも、僕が聞いたところによると、日本のメディアも再三取材の申し込みをしていて、SMILE-UP.側が全て断っているようです。
では、なぜBBCの取材は断らなかったのか? 推測ですが、1年前の『J-POPの捕食者』で「BBCの記者が事務所を訪れて、門前払いを受ける」というシーンが流されていて、「今回もまたそこを撮影されるよりは」ということで受けることになったのかもしれないですね。
ただ、東山氏の話しぶりが、組織のトップとしては考えられないくらい緩く、ともすれば牧歌的で、「弁護士は立ち会っていなかったのか」という素朴な疑問が浮かぶぐらいでした。
しかも、誰もが知るあの声で語るので「すごくいい音の出る楽器で、つまらないメロディーを奏でるミュージシャン」みたいな空疎さもあり、「僕は今、何を見せられているのだろう」とすら思いました。
話しぶりは時代劇のような重々しい雰囲気なのに、話の内容が論理として脆弱すぎて「あぁ、こういう人をトップに戴く組織だから、いろんなことが起きてしまったんだな」と妙な説得力ありました。皮肉を込めて言っていますが。