歌うために生まれてきた
以前のドイツ留学中にオペラを鑑賞し、『来世があるとしたら歌手になりたい』と夢見た柏田さんは、31歳で日本声楽家協会の養成所に入所。約1年間通うと、高い歌唱力が認められ、オペラ発祥の地とされるイタリアへ渡る。
「ソプラノなんですが、低い音が充実しているんです。よくアルト?と聞かれることもあります。手術する前は高音が出ず、低音でしか声を出すことができない状態だったので、発声障害だったおかげかもしれません。また、レッスンでは倍音の訓練もたくさんさせられました。ヨーロッパでは倍音が強くならないと通用しないんです」
倍音とは整数倍の周波数を持つ音の成分。柏田さんが筆者の目の前で、低音域の倍音のみを出す離れ業を披露してくれた。説明が難しいが、音が360度響き渡り、とても柏田さんから声が出ているとは思えない、なんとも不思議な事象に口をあんぐりさせられた。ヨーロッパでは倍音の優れた声楽家ばかりだという。
ドイツのミュンヘンでもレッスンを重ねてきた柏田さんは2012年、コンクールを受けることを決意。かつて『枯れ葉』『宇宙人』などと心無い言葉を浴びせられてきた彼女がイタリアの国際オペラコンクールで見事優勝を飾った。
「昔のことを振り返ると…言葉にならないほどうれしかったです。本当に感無量でした。そして何か役に立つことができないかという思いを強くしました」
彼女の声には不思議な力がある。小鳥やザトウクジラが自身の歌に共鳴する現象を経験してきたという。今後の目標は、みんなが幸せを感じ、癒しとなる音源をつくることだ。
「声楽家になるなんて夢にも思わなかったし、来世で歌手になりたいと思っていたことが現実になっているし、今では歌うために生まれてきたんだなと。いつまで歌い続けることができるかわかりませんが、形として残していきたいと思っています」
柏田さんは自然の中で歌ってる時の方が良いパフォーマンスを発揮しやすいと話す。新天地でスタートした人生の第2章。様々な苦難を乗り越え、たゆまぬ努力で手にした心揺さぶる“奇跡の歌声”で、これからも多くの人を魅了する。

取材協力:郷雲 GO-UN(一棟貸し宿泊施設・大分県日田市天瀬町赤岩490)