全身のあらゆる部位に痛みを伴わない『しこり』や『はれ』が現れる悪性の「軟部肉腫」。人口10万人あたり年間で約3人発生すると言われる原因不明の謎の病気で、転移や再発するリスクも高く、命にもかかわる“希少がん”とされている。大分市で飲食店を営む原田口貴之さん(37)は5年前、軟部肉腫の一種「脂肪肉腫」という告知を受け左足の切断を余儀なくされた。その後、5年間の長い闘病を経て一度は手放した店を再開。義足による痛みをこらえながら厨房に立ち続ける男性シェフの思いに迫る。

気になっていた『しこり』 悪性のがん…まさか自分が

大分市内にあるイタリア料理専門店「hitoyoshi」のオーナーシェフ、原田口貴之さん。営業日の朝、左足に義足をつけ、ランチタイムに向けて仕込みの作業に取りかかる。

原田口さん:
「やっぱり店の厨房が集中できる場所で一番落ち着けますね」

幼少期から家で料理を作るのが好きだったと話す原田口さん。高校進学後、料理家を目指すことを決意し学校を中退。様々な店で修業を重ね、2014年に念願のイタリア料理店を開業した。店名の「hitoyoshi」は、小学校時代の先生から「『食』という字は人を良くするということだよ」と教わったのがきっかけ。店はパスタをメインに、素材にこだわった前菜やスイーツなどを提供していた。

そして順調に客を増やしていた矢先の2018年3月、謎の病気を患っていたことが判明する。

原田口さん:
「しこりというか、たんこぶが気になっていたんですけど、痛みは全くなかったです。店もやっていたし病院に行くのも忘れてしまうんですよね。そんな時に常連の医者に診てもらい、原因がわからないから医大で病理検査したほうがいいっていうので」

入院時の原田口さん

以前から左足内側くるぶしの上部あたりに3センチほどの『しこり』があったという。原田口さんは当時、店の常連客だった医師に何気なく相談。すぐに診察した方がよいとアドバイスを受け、紹介された医大で病理検査した結果、悪性のがん「脂肪肉腫」と告げられる。

原田口さん:
「本当にドラマみたいに周りが見えないというか、頭が真っ白になった。まさか自分がという感じで。店をどうするか、今後どうするかも全く何も考えられない状態でした」

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