愛媛県松山市で今月12日、松山城がある城山の斜面が崩れて住宅1棟が倒壊し、3人が死亡した土砂崩れで、愛媛大学の専門家が現地を調査し、その速報メモを公表しました。

現地調査メモには
▼現場の斜面では表面に近い層が流れる「表層崩壊」が起きた
▼崩土が樹木とともに流れ落ちた過程とは少し遅れて、泥のようになった土砂と流木が流れ落ちるなど、複数の過程があった可能性が考えられること
▼崩壊面の上端の位置は、崩落前に救急車両用道路に生じていた亀裂にほぼ沿っており、亀裂より天守閣側には亀裂は生じていない
などが記されています。

以下、現地調査の速報メモ。

令和6年7月12日早朝に松山市緑町土砂災害が発生しました。3名の方が様牲になりました。ご冥福をお祈り申し上げます。(中略)愛媛大学のすぐそばでこのような痛ましい災害が発生し、原因究明に役立ちたいとの思いで愛媛大学の上砂災害に関係する研究を行う教員が集まり、合同で調査することになりました。

松山城城山公園管理者である松山市市街地整備課の許可を得て7月14日に6名で緑町被災区域の状況を、同じく情報提供と協力を得て7月15日に13名で崩壊斜面源頭部の状況を調査いたしました。調査直後、合同調査に参加した教員で調査結果を議論して、共通認識をまとめました。定量的な評価や厳密な確認はこれからですが、現地調査結果を速やかにまとめたものを以下に報告いたします。

【調査の概要】
10時より11時まで全員で視察した。11時頃、雨が降り出し、それが強くなったことから一時中断したが、降雨による表流水の日視や計測、斜面状況の変化を確認するため再開し12時頃まで視察した。視察調査の際には、コンサルタント技術者が多くで様々な現地調査をしていた。

【調査直後の共通認識】
崩壊斜面の上部の緊急車両用道路からの目視観察のみで計測道具を使用していないため、以下、数字は目安である。

・崩壊斜面源頭部周辺での露頭は砂岩であることを確認した。滑り面は砂岩であると推察されるとの見方もあるが、確定するには滑り面に下りて直接観察する必要がある。
・斜面崩壊の形態としては表層崩壊である。
・主に風化砂岩からなる厚さ1~2m程度の表層があったものと推察される。
・斜面崩壊の始まりが、崩壊面の上部か中腹部か、あるいはその両方と考えられるが、その順序は今後の検討が必要である。
・構造物被害のメカニズムは、崩上が樹木(流木)とともに流下して衝突した過程と少し遅れて泥濘化した土砂と流木が防護ネットと擁壁を破壊したり乗り越えたりする過程とさらに泥濘化した土砂の流れが続く過程など、複数の過程があった可能性が考えられる。(7月14日に6名で実施した緑町被災区域状況調査を加味)
・源頭部崩壊幅は目測で約50m、源頭部から下方に目視確認できる崩壊面は下に行くほど狭くなっていた。崩壊面の途中で止まり滞留する崩壊土砂量は少なく、崩壊土砂の多くが流下したものと思われる。
・源頭部周辺の非崩壊部斜面の傾斜角は、崩壊源頭部北瑞やや下方から撮影した写真から読み取ると40度前後、滑落崖の最大傾斜角は60から70度であった(目安であり、正確には測量結果で修正される)。大きな傾斜角は基盤となる砂岩層が差し目の状態にある(受け盤である)ためと思われる。
・崩壊面の上端(滑落崖上端)の位置は、崩落前に緊急車両用道路に生じていた亀裂にほぼ沿っており、この亀裂より山側(天守閣側)には亀裂は生じていない。この亀裂は、既設擁壁裏の盛上部と地山部の境界(おおよそ道路中央)で生じたものと推察された。
・「この亀裂に伴い北側では既設擁壁の回転と沈下が発生し、緊急車両用道路に亀裂と段差が生じていた。そこで、南側約10mの部分の擁壁ブロックを残し、他の擁壁ブロックを緊急車両用道路から吊り上げて撤去し、ブルーシート養生を施工した」との説明を市担当者より説明を受けた。亀裂部への雨水の浸透を避けるために覆うブルーシートは、城側端部を連続土嚢で仮設排水路(城側)からの越水を防いだとの説明を受け、現物を確認した。
・既設擁壁の南側約10mは回転変形と沈下を伴いながらも崩落せずに残っており、その周囲の様子、樹木の伐採されていない状況も確認した。

・「今次の災害前に実施した緊急車両用道路の復旧改良工事に必要な樹木伐採は限定的であり、表層の強度維持の観点から伐採後の根系は維持してあった。工事以外にも、樹叢維持管理計画に従った伐採も進められていた。」という説明を市から受けた。それが確認できる写真の提供を依頼し、その後に受け取り確認した。

・天守閣本壇地盤では、天守からの排水・表流水の流路を観察し、本壇から緊急車両用道路ヘの流れを流路痕跡とともに調査中の強度の強い降雨時に流水で確認した。艮門および東続櫓の横の斜路は鉄板とグレーチングでできており、本壇側は本壇地盤面より高くなっており、この斜路からの表流水は無視できることを確認した。斜路両側では本壇面からの流水があり、それらは互いに逆方向に流下しており、期待する排水経路に沿って流れていることを確認した。
・調査中の強度の強い降雨時の崩壊斜面を観察すると、降雨時には崩壊面の各所で水が流下しており、時折、土砂が落下・流下する様子が確認できた。また、降雨強度が下がるとともにそれらの斜面における流下水が止まるなどを観察した。そのような降雨と流下するの速い応答特性を観察した。表流水に加えて、滲出・湧出・流出する水の挙動を検討する必要性を示唆している。
・本壇地盤面を城壁に向かう流路に沿う水は城壁上端に達すると越流する間もなく城壁裏込めに浸み込んでいく様子が確認された。城壁裏込め石の層を伝って緊急車両用道路面の下の地盤に流入する流路の存在も推察された。

・以上の観察結果は、表層崩壊から崩土などが流下して災害を引き起こす過程を単純なモデルで説明することは困難であることを示唆するものである。表層崩壊の箇所と順序、それらを引き起こす表流水・浸透水の流路や割合、複数の過程にある表層崩壊とその流下過程や泥濘化した土砂の流れの組み合わせと順序など、非常に複雑であり、これらを複数モデル化し、多面的に検討することで、原因究明を科学的に行う必要があることを確認した。

松山市城山斜面崩壊・緑町土砂災害 愛媛大学専門教員合同調査グループ