それは盛岡誠桜戦の第2打席でみせた一振りだった。結果は一塁へのファウルフライ。しかしすさまじいスイングでかち上げた打球は甲高い金属音を残し、高々と舞い上がった。その滞空時間は、6.21秒―。

2023年7月22日、夏の高校野球岩手大会準々決勝。きたぎんボールパーク(盛岡市)に花巻東・佐々木麟太郎が残した衝撃の時間帯だった。

本人とすればほんの少しボールの下にバットが入ったのだろう。ホームランとは紙一重だったに違いない。なにせ高校野球では見た事が無い高さまでボールが上がり、中々落ちてこなかったのだから。ファーストも後ろに転びながらの捕球だった。

メジャーリーグで今季最長の滞空時間のホームランは、同校の先輩、エンゼルス・大谷翔平の6.98秒。金属バットと木製バットの違いはあれど、世界最高峰の舞台で次々と歴史を塗り替える男に匹敵する打球だ。

佐々木麟太郎はスイングスピードが抜群に早く、力強さもある。タイミングをとる際の腕の動かし方は、バリー・ボンズを彷彿とさせる。
力任せに引っ張るだけかと思いきや、レフトに流し打ちするしなやかさも備えている。

高校通算140本のホームランはトレーニングの賜物だ。IBCが同校に取材に訪れた際にはハーフデッドリフトで260kgを持ち上げていた。その背筋力はもはやプロ野球選手のレベルにあるといっていい。

父は花巻東の監督である佐々木洋。幼少期から甲子園のアルプススタンドで応援していた。自身が3年になり最後の夏、甲子園出場を決めた。
菊池雄星、大谷翔平など、数々の偉大な先輩に熱い視線を送ってきたその聖地に、自分が立つ時が来た。

先輩が成し遂げられなかった“岩手から日本一”。
140発男のバットが、チームを「最高の夏」へ導く。