セクシュアリティを明確に、細部まで伝えることの必要性〜ちかときみの意見〜

結婚から妊娠に至るまでに密着し、普段の生活についても意欲的に取り上げた、ちかときみに関する一連のドキュメンタリー。
この報道は非常に大きな反響を呼んだと、携わった者のひとりとしてもそう思っているのですが、ふたりがこのように、セクシュアリティや互いの関係性も明かしたうえでメディアに出るというのは、実は初めてのことでした。
ちかときみの間でも、自分の性のあり方に関する考え、特にカミングアウトに関するスタンスには、今回の取材を受けるまで明確な差がありました。
ちかは以前から比較的オープン。これに対してきみは、自分がトランスジェンダーであることを明かさない姿勢を、周囲に対して貫いていました。職場でもクローゼット(※注1)でいることを決意していたんだとか。なので取材が始まった当初は、正直迷いがあったそうです。
※注1:クローゼット
…………性自認や性的指向を公表していない状態を、衣類をしまっておく「クローゼット」、すなわち押入れの中にいる様子にたとえた表現で、LGBTアクティビズムの歴史では比較的初期から使われています(イヴ・セジウィック(1990)『クローゼットの認識論』を参照)。最近メジャーなのは「着たい服を外に持ち出せないかのように、本来そうありたいセクシュアリティを隠している状態」という、当事者本人のスタンスを表す使用法です。ですがかつては、「クローゼットの中に入る(into the closet)」という表現で、周囲の目を気にせず振る舞えるLGBTコミュニティに加わる、という意味も持っていました。

ですが、回を重ねて取り上げられる中で、当事者の友達や親戚をはじめとして、周囲から「テレビ見たよ!」「おめでとう!」というポジティブな反響をもらう機会が増加。
それによって「今後は自分を隠すのではなく、セクシュアリティをオープンにした上で、どんどん自分たちのことを発信していこう」と思うようになったと、きみは言います。
パートナーのちかにとっても、そんなきみの姿勢の変化から、きみとその家族の仲、友人との仲が深まっていくのを見ることができたのは、嬉しい収穫だったようです。
とはいえその反面、この取材によって苦しい思いをしたり、マイナスのリアクションにさらされる機会も大いにあったんだとか。
「妊娠するなんて男じゃない」「当事者として同じだと思われたくない」……コミュニティ内外、どこからかを問わず向けられるヘイト的な書き込みに胸を痛めながら、ちかときみはその渦中で「どうしてこんな辛辣なコメントが生まれてしまうのか」という問題について、よく考えたといいます。

そのひとつの答えとして出てきたのは、ある共通の見解。
それは 「自分たちがどんな当事者なのか、もっとはっきりした紹介が必要なんじゃないか」 というものでした。