胆振東部地震は、札幌でも大きな爪痕を残しました。
それは「液状化」です。5年がたった今も実はまだ終わっていませんでした。
じりじりと焼き付けるような日差しが注ぐ、先月の札幌。
清田区では、今も胆振東部地震に関連する作業が続いています。
不動産価値への配慮から、詳しい場所を明かさない条件で、取材が許されました。
勢いよく噴き出してきたのは、地下水です。
5年前の地震では、この地域でも液状化が起きました。
この地域は盛り土でできていて、地下水が比較的高い位置まであり、地震により地盤が変形しやすい特徴があります。
札幌市建設局土木部 市街地復旧推進担当課 藤永壮毅(まさたけ)さん
「地下水位を低下するために地中に入れている管。土砂の中に管が入って、土砂に含まれている水分だけこの管に入っていくようにする」
そこで、暗渠管(あんきょかん)という管を深いところで地下5.5メートルまで入れて水を抜き、水位を徐々に下げています。
札幌市の液状化の対策は、この作業を最後に来月ようやく終了します。
2018年の9月6日。胆振東部地震は、札幌にも大きな被害をもたらしました。
海老桂介記者
「道路は1メートル以上沈み込んでしまっています」
札幌市内で観測史上最大の揺れ=震度6弱を観測した東区では、地下鉄東豊線の真上を通る「東15丁目屯田通」が4キロにわたり大きく陥没。
幾島奈央記者
「この(マンホールの)フタがある高さが、もともとの道路の高さでした」
震度5強を観測した清田区では、地盤が「液状化」。
住宅が大きく傾くなどの被害を受けました。
町内会長の盛田久夫さんは当時、地域の思いがバラバラになっていくことを懸念していました。
里塚中央町内会 盛田久夫会長
「不安を抱えたり不満を抱えたりして、いろいろな声がバラバラに聞こえてきた。どっかの場所で一括してまとめることも必要かなと」
被災から4か月後、札幌市は住民の相談窓口となる現地事務所を設置しました。
地震直後から復旧に携わり、復旧推進室にも最年少で配属された藤永壮毅さん。
当時、上司からかけられた言葉が忘れられないといいます。
札幌市建設局土木部 市街地復旧推進担当課 藤永壮毅さん
「『この里塚を土木技術的に復旧するんじゃない。その人のコミュニティを復旧復興させていくのが何よりも大切』だって」
藤永さんはこの地域に住む人たちの顔と名前、家の場所をいまも記憶しています。
札幌市建設局土木部 市街地復旧推進担当課 藤永壮毅さん
「一緒に心を痛めて、そのあとその人が再建できることが決まってから、その人の家が建っていく様子を見て、地域の人たちと本当にまちが復興していく様子だとか、家を失っていく様子を共有していたかなと思う」
「市」「住民」「工事関係者」の三位一体で乗り越えたという里塚地区の復旧。
被災から5年目をむかえたこの夏、ある”別れ”がありました。
2年前の「里塚地区」。復旧工事の完了を記念する式典に、1人の男性が参加していました。
地盤復旧工事を担当(伊藤組土建) 馬場秀貴事務所長(2020年9月6日)
「落ち込んだ心を少しでも手助けというか少しでも寄り添えたらなと」
地盤工事の事務所長を務めた、馬場秀貴さんです。
馬場さんは週に1度、工事の内容をわかりやすく伝える「里塚復旧工事通信」を発行していました。
地盤復旧工事を担当(伊藤組土建) 馬場秀貴事務所長(2020年9月2日)
「堅苦しくなっちゃうと仰々しくなっちゃってあまり見てもらえないかなと」
「サンタクロースが現場に登場。西本サンタと林トナカイが現場周辺を練り歩く」(当時の里塚復旧工事通信より)
被災によりバラバラになりそうな住民たちをつなごうとする、馬場さんの姿。
市が設置した復旧推進室に最年少で配属された藤永さんの心も、突き動かしました。
札幌市建設局土木部 市街地復旧推進担当課 藤永壮毅さん
「自分の利益のためにやっていないと思う。なんか僕より公務員向いてるんじゃないかって思ったんですけど」
しかし、今年6月。
馬場さんは子どものスポーツの試合に向かう途中、自転車事故で死去…
町内会長の盛田さんも、まるで地域の一員のように住民に寄り添う馬場さんの姿が強く記憶に残っています。
里塚中央町内会 盛田久夫会長
「町内会に対する行事だとかそういったことへの応援というか、それがすごく印象に残っているんですよ。だからよくやってくれた。要するに仕事以外ですよね、はっきり言って」
今年5年ぶりに開催した夏祭りには、「里塚復旧工事通信」の最新号を発行。
馬場さんの訃報を伝えるとともに、藤永さんはコラムにメッセージを寄せました。
札幌市建設局土木部 市街地復旧推進担当課 藤永壮毅さん
「馬場さんからおすそ分けしてもらったこの愛を大切にしながら、今後の人生、一歩ずつ進めていくことが馬場さんへの恩返しだと思っています」
そんな藤永さんが、取材の最後に、ずっと気にかけていた本音を漏らしました。
札幌市建設局土木部 市街地復旧推進担当課 藤永壮毅さん
「ようやく忘れることができた被災者の人がいると思う。嫌な気持ちをこれ(放送)で思い出さなきゃいいなって正直ちょっとだけ思っている」
単に、マチの見た目を元通りにするだけが、復旧ではない。
住民を思う馬場さんの心は、次の世代に着実に引き継がれています。