北海道の知床半島の沖合で、26人を乗せた観光船「KAZUⅠ(カズワン)」が消息を絶ってから1週間…14人の死亡が確認され、海底に沈んだ船体が見つかった一方、12人の行方がわからないままです。
 こうした中、当日、出航の準備などを手伝っていた元従業員の男性が、あらためて運航会社の社長、会社の実態、前日から当日までの船長の詳細な様子、社長会見の矛盾などについて証言しました。

◆旧知の豊田船長とは出航前日から接触…
「豊田(船長)は知らなかったんだ。おまえ、明日2隻になったんだぞって言ったっけ『えっ!?』て」
「俺より(今の会社の事情を)知らないのさ。豊田さんは…」

※運航会社「知床遊覧船」の船長は「KAZUⅠ」の豊田徳幸さん1人だけ。他のスタッフも少なく、1隻だけでもギリギリの体制なのに、2隻目の「KAZUⅢ」を臨時船長を雇ってまで出航させる会社、しかも、自分には伝えてさえいない…豊田船長の複雑な心中が察せられたという。

◆当日、豊田船長は遅刻…
「朝、何時だったかな…9時でいいのかって言って、8時だか9時だか決めて8時だったかな?事務所に行ったんだけどね。まだ、来てないって」
「『逃げたんじゃないのか?』って言ったんだよ、オレ。もう嫌で、たくさん任されてさ。多分、あの人の中では、頭パンパンだったと思うんだ。パニくってたことは間違いない」
「船の仕事以外のこともやらされたり、なんだりって、言ってたからさ」
「除雪とか、なんだ、オイル交換も毎日、最後に自分でやったんだから。業者にやってもらったほうがいいぞって言ったんだけど。こっち(金)の問題があるから」
「金額が。車の何倍も違うわけね。オイル交換『自分でやれって言われてるんだ』って言ってた」

豊田徳幸船長(フェイスブックより)

 ※豊田船長と桂田精一社長が天候、出航の判断をめぐり、じっくり話し合うような様子は「見ていない」といいます…

◆豊田船長は…
「私はお客さん案内しながら、豊田さんに声かけてるの 『これから時化るからなって』」
「他の人も言ってるのは、知ってるんだわ。同業者も『23日、ダメだぞ』って」
「でも、本人もたくさんいろいろやることあって、もう、頭に入ってなかったかもしれない」

◆桂田社長は…
「あの人(社長)たぶん、天気見ないと思うんだよな」
「(天気図を読めないってことですか?)天気図は見れるしょ。あの、理系強かったら、大体見れると思うから。うん、天気図はね」
「今日、時化るっていうのは、あの人の頭にあったのかどうかね」
「でも(豊田船長)と話したって言ってるから、ウソでないのかもしれないけどね」
「社長は、海は、まるっきりの素人で、全くわかんないからね。豊田さんが決めなきゃならないのね」
「海のことはね、それは、はっきり言って(社長には)無理なんだ」

※依頼を受け、出航前の「KAZUⅠ」の乗客への対応業務を手伝った元従業員。7歳の男の子と母親、20代のカップル、3歳の女の子と両親などが乗船…

◆出航前の乗客の皆さんの様子は…
「子どもにライフジャケットを着させたのも私なの」
「ライフジャケット、私が着せて。そしたら、大きかったんだわ、子供用のが。その7歳の子には」
「だから後で係の人(甲板員)に言って、小っちゃいやつに変えてもらいなさいよって言った」
「何もこれから予期できないことが起こるとは思ってない、普通の笑ったりしてた感じだよ」

◆船上でプロポーズ予定だったカップルも…
「そのカップルも知ってるし。双眼鏡が逆だったから『それ違う、それだと小っちゃくなるから』って教えてやったんだから。使い方をね」
「若いカップルだなと思って。20代中くらいかな、女の人は綺麗だった記憶あるんだけどね」

◆小さな子どもも…
「ふっと見たら、小っちゃい子もいるんだって。抱かれて入ってきたから」
「小っちゃい子もいるんだって、そのとき見たんだ。3歳の子はね」
「ライフジャケットは、そっちには着せなくていいのさ。私が着せたのは後ろの、外の席は着せなきゃだめだから」
「だから、ライフジャケット全員着せてたって話してるけど、着せてないんだ」

あの日、出航を手伝った元従業員の男性

 ◆出航を見送って一息、帰港の時間が近づく午後になると…
「もう、13時ちょっと前くらいになってたのかな。13時ぐらいだな。次、迎えに行かんきゃならんから、今度、お客さんを。だから、船、帰ってきてから(昼食を)食べに行こうという話になったんだ」
「そしたら無線入って、G社にね。(遭難の)2日ぐらい前の話だけど、G社にウチの無線使えないから、傍受しといてという話なんだ。ほんとかどうかわかんないけどね」
「それじゃなかったら、向こう(KAZUⅠ)で、どこどこ通過って言うわけないんだから」
「『カシュニの滝を通過って来たよ』って。だいぶ遅いな、なんてぐらいの話はしてた」
「遅すぎですよね?だって13時に戻ってくる予定だったのに」
「まあ、ふだん『KAZUⅠ』は、足が遅いんでね、スピードでないんで、大概は3時間15分ぐらいかかるんだわ」
「そして、そのまたすぐ戻ってすぐ来て、今度はちょっと波高いんで、ゆっくり帰るからって来たの」
「あー、そしたら何時ごろだなーっていう話なんかしてたんだわ」

◆状況が急変、一気に緊迫…
「そしたら次、慌ててG社の人が来て『なんか浸水してる』って来たんだって」
「『30度ほど傾いてて、お客さん全部2階に上げてる』っていうのが来てから、無線のほうはないんでないかな、確か」
「(G社の人は直接来たんですか?)その最後の時に走って来たかな。どうするって話になって、それで海保に電話したんだ」
「(海保に電話したのはご自身?)いや、Yさんだと思う、確か。わからん。そのG社の人かもしれん」

◆そして、社長に電話…
「(社長は、その日どこに?)北見に行ってたみたいだから、奥さん病院から迎えにね」
「そしたら、そのうち網走からだと思うんだけど、海保の人たちも来て、乗船してる人、全部に電話かけてみたりしてた。当然、つながらんけどね」
「ちなみに1件だけは、奥さんに『船沈みかかってる』っていう電話いったみたいだね。ドコモしか使えないから、あそこ。その時はそんな感じかな」
「(社長に電話したら、社長はなんて?)わからん。俺たち電話してないし」

◆その後、客からの電話対応などに追われた後…
「(社長は、いつぐらいに来たんですか?)夕方だね。夕方のちょっとまあ、暗くはなってなかったような気がするんだけども」
「(会長っていう人は、ちょくちょく顔を出してた?)会長?会長は、お父さんでしたっけ、おじさんでしたっけ?」
「なんていうんだ?お父さん、社長のお父さん、元社長だね」
「(会長から何か指示があった?)いや、なんもしてない。なんか、缶コーヒー持ってきたりなんだりしてたけど、そんなことじゃないんだけどね。ふつうは」
「(社長は着いたら何をしてたんですか?)黙って、立って、見てた。玄関で。私が最後に見たときはね。そのあと私、帰ったんだわ。たくさん人いるしさ。ひょっとしたら次の日、捜索に出るかも知らんなと思ったから」

※社長は27日に初めて会見、その発言は、矛盾がいっぱいだったという。

◆社長会見を見て…
「頭を下げなきゃならないのはもちろんだけど、はっきり言って、もっと早くやらないとダメだよね」
「もう、帰っちゃった被害者の家族もいるでしょ?社長の顔も見てないって言ってたからさ」
「だから1組ずつ…嫌なこと逃げ隠れするタイプなんだわ。それもホントに前からあったから」
「絶対、豊田さんの責任に全部するなって思ったのが『私が悪い』って認めたのは大したもんだなって。びっくりしたね」
「(会見までの)5日間で考えたのか、誰かの助言もあったのかもしれないしね」

会見する桂田精一社長(27日午後)

 ◆波が高くなるのに出たという判断は…
「今までの古いメンバーでやってても、出たと思う」
「でも(天候が)悪くなるのわかってるから、どこか途中で、私の感じでは、ルシャってところ、真ん中くらいで帰ってくるのが妥当だね」
「帰りは大変だよ、途中から」
「それは、豊田さんのキャリアが浅いからできないのね。なんぼ操作が上手くても」
「船に乗ってても、この海ではないところで乗ってたから」
「ホント、速いときは、3分で海の状態、変わるときあるから」

◆特に気になったポイントは…
「ウソはつくよ!あの人」
「『なんで他の会社は出てるのに、出ないんだって言ったことある?』って質問に『記憶にありません』って言ったんだけど、それは、何回もあるから、記憶にないことはないんだわ。1回じゃないんだから」
「(耳にしたこともある?)いたもん、そのとき。私たちがいたときね。おととし以前ね」
「あのように波あるときは出ないけど、他の会社が無理して出してたり、船の形もあるんだ」
「今回、事故になった船は、向かい波に弱いの。他の会社の船は波を切るような形になってるから、割とね」
「そんな酷い波はダメだけど。それでも他の会社は帰ってくるんだけどね」

◆無線のアンテナが壊れていた話は…
「俺が発見したのね。1月の終わりか2月ごろに。で、豊田さんに会ったときに『おまえ、アンテナ折れてたぞ』って」
「まあ、使わないから誰も。運航してる月でないから。(豊田さん)が社長に言ったのかどうかはわからないけどね」
「会長にも言ったんだわ。私でないけど、そのとき、駐車場係してる人が」
「そしたら会長が、そこで斜里の無線の電気屋に電話するわって言って、電話するようなフリはしたけど、なんもしてないんだわ。在庫があれば、上って30分くらいで付くでしょ?」

◆社長は会見で出航の当日、修理を頼んだと…
「わかんない。急に修理を頼んだのかもしれない。それは、わからない。私も直接話していないし」

◆出航の3日前、会社は衛星電話から携帯電話に通信手段を変更して申請…
「『無線つながらないからな』と豊田船長に2~3日前に言ったとき『(会社に)携帯でもいいって言われたんだよな』と言っていた」
「海保かなんかの、検査も入った(通った)からって」

※国土交通省によると「KAZUⅠ」」が出航の3日前に受けた日本小型船舶機構による検査で、衛星電話から携帯電話に通信手段を変更して申請し、検査を通過。この際、豊田徳幸船長に陸上との通信が可能か尋ねたところ「つながる」と答えたため、検査を通したということです。しかし、その後、豊田船長は「自分のはつながらない」とも話していたということで、国の検査、安全確認のあり方も問われる事態になっています。

◆他に、社長の人柄などがわかるエピソード…
「去年ね、5月の連休明けだね。小型船協議会。桂田精一が会長なんだ。なんも海のことわからんけど」
「それで皆で話し合って、2週間だったかな、自粛して休もうって。コロナでね。自粛して船出さないと決めてんのに、自分のとこ出てくんだよ、おかしくね?」
「あるところの会社の社長が『なんで船出してんのさ?』って言ったら、まず、練習のため、新人のね」
「そして『宿に泊まってるお客さんが暇だって言うから』って。要するに宿と船がタッグになってんの。同じ会社だから」
「それでもう、ずっと出してて、最後に『利益は還元しますから』って言ったけど、誰も、もらってないから。一切ね」
「自分会長で、自分たちで決めたんだよ?そのとき言えばいいでしょうにね、ウチは出しますってね」

◆14人が死亡、12人が未だに行方不明の大惨事に…
「お客さんもそうだけど、早く見つかって欲しい」
「一緒に酒飲んだこともあるんだから、豊田さんは…だから、早く見つかって欲しいよね」

「KAZUⅠ」は交信絶った「カシュニの滝」1キロほどの海底で発見

 4月30日(土)午前9時26分配信