3歳からチックを患っていた私は、気付けばチックがある自分が当たり前になっていましたが、とあるとき思うのです、身体や脳を襲うこのとてつもない不快感がなければどんなに世界は素晴らしいものなのかと…

唯一その不快感から開放されるときがあります、それは寝ているとき、つまり脳が休んでいるときです。でも寝てしまっているのです。

なぜ寝ているのにそれがわかるのかというと、目覚めたわずか数秒にも満たないその瞬間、不快感から解放されていることに気付くのです。人生で唯一の私が普通の人になれる苦しみから開放される一瞬です。

しかし目覚めと共に、脳が活動を始めると共に、身体を蝕む衝動と止められないチックの地獄が始まります。


当然学業はままならず、高校を卒業するのがやっと。当時は世の中にインターネットが普及する前、勿論SNSも存在せずトゥレット症などという言葉を知る由もない。

自分がいったい何者なのかもわからず社会に出た18歳の私、親から借りたお金で一人暮らしを始めるが職を転々とすることに。

別に転々としたかった訳では無い、せざるを得なかったのだ。なぜなら行く先々でチックを馬鹿にされる、私がチックを出しながらも必死に働いている後ろ姿を指差して笑っている上司がいる。

他の従業員を呼んでまで一緒に嘲笑っている。珍獣を見ているかのように無言で凝視してくる同僚。真似をされるのは当たり前。運動チックが奇妙過ぎて化け物を見たかのように悲鳴を上げ走り去る人。チックを理由に職を解雇されることもあった、できる限り迷惑にならないように我慢していたのに。

当時の私はチックを止められない自分が悪いと思っていた。

疲れ果てて一人暮らしのアパートに帰るも、そこにも私が安らげる場所はない。チックが出れば隣から壁を殴る音(うるさいの意味)、下からは棒か何かで天井を突っつく音(うるさいの意味)。

誰一人として私のチックを肯定してくれる人などいなかった。