深夜に届いた配達員からの見慣れない“メッセージ”

人混みや電車の中で突然大きな声を出す人を見かけると、私は「ヘンな人だな。近づくのはやめておこう」とやり過ごしていた。トゥレット症の“彼”と出会うまでは…。

自分の意思に反して声が出たり、体の動きが出てしまうチックの症状が重いトゥレット症。私がその当事者の一人、棈松怜音(あべまつ・れおん)さん(28)と出会ったきっかけは偶然だった。愛知県警の担当記者だった今年2月、仕事終わりに注文したウーバーイーツで料理を運んでくれたのが怜音さんだった。


アプリに表示された見慣れないメッセージ。そこには「自分にはチックという病気があり、声が出たり、体の動きが出たりしてしまうが許してほしい」と記されていた。

取材初日「迷惑をかけてしまうかも知れません」

当初は、取材に難色を示していた怜音さんだったが、「自分を含むトゥレット症・チック症の当事者が生きやすい社会になれば」と今年8月、取材に応じてくれた。


取材の初日、私たちスタッフに向けて語った怜音さんの一言が今でも忘れられない。

(怜音さん)「ごめんなさい。(取材中に)色々“迷惑”をかけちゃうかもしれないですけど」

15秒に1回、勝手に声が出てしまうことで、一緒にいる人も同じように、冷たい目線を浴びてしまうかもしれない。“迷惑をかけないように”と初めて会う人には、先に謝るのだという。

『店外での声出しは“近所迷惑”になるので控えて』業者からのメール


ウーバーイーツの仕事を選んだ理由の1つは、人と関わる時間が少ないから。配達の際にはお客さんに対し、事前に病気を説明するメッセージを送る怜音さんだが、それでも仕事中に罵声を浴びることも少なくない。

(怜音さん)「消えろ!とか治す気がないから治らないんだとか。そんなことを言われたこともあります。慣れてはいるけど…やっぱり辛いですよね」

怜音さんはウーバーイーツとは別のデリバリー業者から届いたというメールを見せてくれた。そこに記されていた内容に私は目を疑った。


(メール)『店外での声出しは時間帯により“近所迷惑”になるので控えて欲しい』

(怜音さん)「病気のことを知らない店の人が業者に通報したんでしょうね。店の人も決して悪気があったわけではないと思います。チックのことを知っていれば、見る目が違ったと思うし、まだまだ認知が進んでいないことを身にしみて感じた瞬間でした」

仕事中には、聞こえてくる悪口を聞かないようにとイヤホンをしている。特に若い人が多く集まる場所や電車の中を、彼は「地獄のような空間だ」と表現する。

取材中、怜音さんの物まねをする若者にも出くわした。

(怜音さん)「僕は人ごみを歩く時、目を伏し目がちにしているんですが、それでもやっぱり気づいてしまいます。馬鹿にされた時は毎回、病気のことを説明するのですが、それも相当なエネルギーを使います」

静かな空間も避けるようにしている。映画館や図書館、飛行機の中…。

(怜音さん)「映画を観るときは、スマホかiPadです。本当は僕だって臨場感のある映画館で最新の作品を観たいですよ」