曇り空で、どんよりとグレー色に染まっていた6月13日の青森市。夏にしてはまだ涼しさが感じられる。この日、青森地方裁判所の第1号法廷で開かれた裁判には、多くの傍聴人達が集まった。

証言台では、車いすに乗った被告の男が、裁判長の問いかけにぼそりと答えている。
―述べたいことはないですか?
「特にないです」
―起訴内容に間違いはありませんか?
「はい…」
青いジャージに身を包み、車いすに乗った色白の弱々しい58歳のこの男が犯した罪は『殺人罪』。自身が入院する病室内にいた、当時73歳の男性入院患者を殺したのだった。
それも、「歯ブラシ」の柄で…。