現在公開中のアカデミー賞11部門にノミネートされている映画「哀れなるものたち」の中で、エマ・ストーン扮する主人公が、ポルトガルのリスボンでエッグタルトを頬張るシーンがあります。サクサクのパイ生地にカスタードクリームを詰めて焼いた、美味しそうなエッグタルト。主人公も一口でその虜になったスイーツ、実は世界遺産と深い関わりがあります。
大航海時代が生んだ世界遺産

リスボンにはジェロニモス修道院という世界遺産があるのですが、エッグタルトはここが発祥。修道院で作られていたときのレシピを継ぐエッグタルトの名店「パステイシュ・デ・ベレン」が近くにあり、番組「世界遺産」でも取材しました。一日2万個も売れるエッグタルトのレシピは門外不出。作っているところはさすがに撮影させてもらえませんでしたが、シナモンをたっぷりかけるところが、大航海時代に香辛料の交易で栄えたポルトガルっぽい感じでした。

そもそもこのジェロニモス修道院は、大航海時代の象徴と言えます。15世紀に初めてアフリカの南端・喜望峰を回ってインドに至る航路を切り開いたヴァスコ・ダ・ガマ。彼の棺がここには安置されているのです。面白いのは、その棺にコショウの実の装飾が施されていること。

当時、肉の保存に必須だったコショウが採れるのはインドだけで、ヨーロッパの国々はアラビア商人を経由して手に入れていました。ヴァスコ・ダ・ガマは直接コショウを手に入れるべくインドに向かったのです。金にも等しい価値を持ったコショウ。彼の開拓した航路は、ポルトガルに莫大な富をもたらし、その功績を称えるためにジェロニモス修道院は建てられました。建物の各所には、帆船など大航海をイメージさせる装飾がちりばめられています。
