円相場がまたも急落し、14日には1ドル=139円台まで下落、いよいよ140円の大台目前まで円安ドル高が進みました。直接の理由として挙げられているのが、13日発表されたアメリカの6月の消費者物価指数です。前年比で9.1%もの上昇となり、5月の8.6%どころか、事前予想の8.8%をも上回り、1981年11月以来の高いインフレ率です。前月比でみても6月は1.3%の伸びと、5月の1.0%を上回っており、度重なる利上げにもかかわらず、インフレは減速するどころか逆に加速しています。金融市場では、アメリカの中央銀行にあたるFRBが7月の決定会合で1.0%利上げに踏み切るという見方まで台頭し、日米の金利差が一層意識されたとされています。

しかし、為替市場を左右する最も大きな要因とされる長期金利(10年物国債の利回り)は、実は低下しているのです。消費者物価が発表された当日も、いったんはショックで上昇したものの、2.93%にまで下げて終わりました。3%台半ばまで上がった6月と比較すれば、すでにアメリカの長期金利にはピークアウト感が出てきています。これは急速な引き締めによるアメリカの景気減速を、市場が織り込み始めことを示しているものです。

一方、外国為替市場で最も注目を集めているのは、円ではなく、ユーロの急落です。13日、ユーロはなんと20年ぶりに1ユーロ=1ドルという等価(パリティ)を割り込みました。海外旅行好きの人なら、「1ドルは110円だが、1ユーロは130円」というように、円換算した時にユーロのほうがドルより高いというのが半ば常識でしょうが、それが逆転したのです。20年前といえば、1999年に誕生した統一通貨ユーロに対する、いわば先行期待が剝げ落ちた時期で、その後はヨーロッパ債務危機の際にも等価(パリティ)割れしなかっただけに、今回は、歴史的な出来事と言ってよいでしょう。

背景にあるのは、ウクライナ戦争の打撃を最も受けているヨーロッパの景気の先行きへの懸念です。ユーロ圏も6月に消費者物価8.6%上昇と歴史的なインフレに直面していて、ECB・欧州中央銀行はすでに利上げへの転換を表明していますが、すぐ先には景気後退に陥るのではないかと心配されているのです。足もとの円安も、ユーロの急落に引っ張られた感が強く、外国為替市場では、ドルだけが一人、強くなっているという、典型的なドル高が進んでいるのです。相対的に見れば、日米欧を見比べれば、急速な金利引き上げができるアメリカ経済が、一番まともというわけです。

しかし、ここまで見てくると、少し不思議な気もします。アメリカの景気減速懸念が台頭しているのにドル高がどんどん進むのは、違和感がありますし、そもそもインフレが進んでいる国の通貨は、減価する方が理にかなっています。コロナバブルが弾けて買うものがない中で、結局ドルしか買えないという状況を示しているように思えます。言い換えれば、ある種の不均衡が拡大しているとも言え、そうした不均衡は、いずれ相場が反転する際の、マグマを貯めていると見えなくもありません。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)