1988年のソウル五輪で銅メダルを獲得したアーティスティックスイミング界のレジェンド・小谷実可子さん、現在57歳。92年に現役を引退し、JOCをはじめ10以上の競技団体の役職を務める中、約30年ぶりに競技に復帰。去年8月に行われた世界マスターズ水泳選手権に出場し、ソロ・デュエット・チームの3種目で金メダルを獲得した。次なる挑戦は、初めて男性とペアを組んで今年2月の世界マスターズで再び頂点に立つこと。「ASの男性スイマーたちをもっと盛り上げていきたい」と意気込む。

安部篤史さん(左)と小谷実可子さん(右)の演技

ペアを組むのは、男子ASの道を切り開いてきた安部篤史さん、41歳。高校卒業後、それまで続けてきた競泳をやめASの世界へ足を踏み入れた安部さんは、15年の世界選手権で男女1人ずつの「混合デュエット」が採用されたのを機に、競技の世界へ。当時は女子更衣室しかないことが多く「トイレで着替えることもあった」と苦い過去を振り返った。それでも、周りのサポートのおかげで競技に打ち込み、3度の世界選手権に出場、19年大会では銅メダルを獲得した。その後引退してからは“男性のアーティスティックスイミング”をアピールする機会が減りもどかしさを感じていた中、小谷さんから今回の誘いが。「男性のASを知ってもらう良いチャンス。女性だけの種目ではない“ジェンダーレス”なスポーツというのを発信していきたい」と、チャレンジすることを決めた。

リフトを決める小谷さん

小谷さんにとっては競技人生で初めての“男性とのペア”。男女ならではの演技をしたいと、選んだ曲は「オペラ座の怪人」(怪人と歌姫の悲哀に満ちた愛の物語)。お互いの表現力を存分に発揮できるスローパートは見せ場のひとつだ。そして、アーティスティックスイミングの醍醐味である「リフト」も、男性が上げることでよりパワーアップ。「高さが出る分、軸をしっかり締めないと大きな失敗につながる」と見栄えがする反面、難しさも感じているという。また男性が近くで泳ぐと、水をかく水流が強いため、その流れに巻き込まれてしまうリスクもあるようで、「日々学びの連続、新しい種目に挑戦しているような感覚」と語った。

本番前に小谷さんの髪にゼラチンを塗る安部さん

去年10月から練習を開始した2人は、本番の世界マスターズを前に、1月20日、都内で行われた「KOSUKE KITAJIMA CUP」のエキシビションで、初めて観客の前で演技を披露した。出来は上々だったようで、ここから残り1か月、さらにギアを上げラストスパートをかけていく。「アーティスティックスイミングにしかできないオペラ座の怪人を泳いで、マスターズ史上に残る名演技を目指したい」と声をそろえた。

◆世界マスターズ水泳選手権
世界水泳連盟が主催する水泳のマスターズ世界大会。2017年大会では96カ国から9,000人を超える元選手や愛好家が参加。世界中から水泳愛好家が集う大会として水泳界の更なる発展に寄与している。

◆2024世界マスターズ◆
カタールの首都ドーハで2月23日~3月3日に開催予定。小谷さんと安部さんは「混合デュエット50代の部」に出場。大会の開催年の12月31日時点で、2人の年齢が合わせて100歳以上であれば「50代の部」で出場できる。(2人の誕生日は偶然にも同じ8月30日。今年で小谷さんが58歳、安部さんが42歳になり、2人合わせて100歳となる)