野球と車いすテニスという異なる競技で世界一に輝いた二人のレジェンド、イチローさん(50)と国枝慎吾さん(39)。イチローさんが取り組む、ユニクロの次世代育成プロジェクトの一環で出会った二人が対談し、引退に関する話やネガディブな気持ちになった時の乗り越え方について語った。超イチ流のふたりだからこそ共感できることがある一方、そこには全く正反対の考え方があった。
「最強だ」は嫌い
メジャーリーグの歴史に名を刻んだイチローさんと車いすテニスの最強王者・国枝慎吾さん。国枝さんは2023年、世界ランク1位のまま現役を引退した。
国枝:有明のコロシアム、“テニスの聖地”って我々は呼んでるんですけど、初めていらっしゃいました?
イチロー:初めてです。ブルー、僕大好きで。全部ブルーじゃないですか。めちゃ気持ちいいです。
国枝:このブルーにテニスボール、すごく映えるんですよね。昔結構、テニスコートも緑だったんですけど、テレビとかで観戦するとちょっとボールが見えにくいということがあって。15年くらい前からかな、ちょっと青っていうことが世界的に・・・なっていったっていうことはありましたね。
イチロー:確かにきれいですね。
国枝:普段テニスを見られたりは?
イチロー:普段テレビで見ることはありますし、実際は全米オープンですか?錦織(圭)選手が決勝に・・・。
国枝:2014年かな・・・?
イチロー:決勝でしたっけ?
国枝:はい、決勝までいきました。
イチロー:決勝ですよね。チリッチ(クロアチア)とやった、あの試合を見に行ったんですよ(※全米オープン決勝で錦織に勝利したチリッチはグランドスラム初優勝を果たした)。
国枝:スタンドにいらっしゃったんですか?
イチロー:そしたら右斜め前に(アメリカ前大統領のドナルド・)トランプさんがいました。
国枝:1番いい席ですね。僕も例えば、他のスポーツ、野球もそうですし、ゴルフとかを見ることで、何かこうスイングにとか・・・バックハンドとか、結構野球のスイングに似ていることも多いんですよ。例えばこう、イチローさんもおっしゃるように「胸を見せちゃいけない」だとか。バックハンドもそれは全く同じなんです。開いて打っちゃうとどうしてもコースも限定されちゃうし。
イチロー:加速もつかないですものね。
国枝:そうですね。そういうところから何かこう野球で何かヒントないかなとか、調べることがあったりもしたんですけど・・・。
イチロー:いや世界一の選手ですからいらないですよ、そんなの。
国枝:いや常に勉強しないと。
イチロー:てか、世界一で引退するのズルくないですか?
国枝:そうですか?ありがとうございます(笑)。
イチロー:いやほんとズルいと思うんですよ。1位のまま辞めるってどうしてですか?
国枝:僕は2013年に東京のパラリンピックの開催が決まった時から、この東京の舞台っていうのを1番の夢にしていて。それから7年、コロナで(開催が延期されて)8年越しの夢が叶った瞬間に、もうこれ以上ないなっていう風に悟ったというか。これからもう一回オリンピックをやったとしても、また勝っても、もうこれほどはないっていうのをまず思った。野心がないままプレーするってことに対して、ちょっと自分を裏切っちゃうような感覚がまずあったことと、当然、やっぱり達成感、満足感っていうものにすごくしめられた。
イチロー:それはもう納得の理由ですね。でもズルいですよ。それは僕らからしたら、それは競技者として「ずっこいな」と思いました。ただ今の理由を聞いたらそれもよく分かります。やっぱこれ以上の舞台はないだろうなって思ったらそれはできないですもんね。僕、あのWBCという大会があって、2回(2006年、2009年)参加したんですけど。僕にとっては第2回目は思い出したくないほどの・・・。うーん・・・あの時結果が出たから、今こうやってお話できるんですけど、あれ以上の瞬間は僕はない。その後のWBCに、だから全く出る気にならなかったというか。だから今お話しされた話はよくわかります。
(自身が)辞めた時は2019年なんですけど、あれ以上の辞め方はないという。僕も東京だったんですけどそれを考えた時にもう一度戻るなんてことは体力とか技術ができたとしても、気持ちとして全く戻れないので、大変よく分かります。でもズルいですよ(笑)。
国枝:(笑)
イチロー:僕は最後ヒットが出ないまま終えましたから、それは終え方として、見てる人も「まぁイチローもヒットも出なかったししょうがないよね」ってそう思ったと思います。でも国枝さんの場合は1位ですから。