高校野球の監督を鈴木亮平さんが演じる日曜劇場『下剋上球児』(TBS系)が人気だ。弱小チームが勝ちあがっていく王道のストーリーだが、それを体現したような監督が12月、84年の生涯を閉じた。その最後の肉声を12月5日、RKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』に出演した神戸金史解説委員長が伝えた。
◆高校野球で「名将」と称えられ

TBSのドラマ、日曜劇場『下克上球児』を毎週楽しみに見ています。高校野球の弱いチームが勝っていく、王道のストーリーなんですが、それをまさに体現したような監督がいます。広島県立竹原高校で野球部の監督を務めていた迫田穆成(さこだ・よしあき)さんです。
その迫田さんについて書かれた本『83歳、最後のマジック 生涯野球監督 迫田穆成』(ベースボールマガジン社、税別1800円)を紹介しようと思い、迫田さんの近況を確認したら、12月1日にすい臓がんのため亡くなっていて、本当に驚きました。
迫田さんは、広島商業高校で主将として甲子園全国制覇、それから監督としても全国制覇を果たしています。その後、1993年には三原工業高校(現・如水館高校)の監督に就任、8回も甲子園に出場。生涯で14度の甲子園出場を果たしています。
◆孫世代に伝えるYouTube

迫田監督は、孫と同じ世代の選手たちに指導していく中で、YouTube「迫田監督野球チャンネル」を開設して動画を出していました。11月5日が最後の更新でした。秋の広島県南部地区1年生大会で竹原高校が優勝しました。迫田さんは体調を壊したようで、直接指揮はできなかったのですが、指導方法を熱く語っていて、「次は甲子園に出られるようなチームにしたい」と話していました。
Youtube迫田監督野球チャンネル「1年生大会やったー」(11月5日更新)
迫田監督:はーい、こんばんは。お久しゅうございます。ちょっと体調崩しとるけ、こんな格好しとるんですが。
私の野球は、「点をやらない野球」なんです。どういうことかと言いますと、「全国からいい選手を集めてガンガン打たすんだ」「ピッチャーもおるんです、大丈夫です」、そんなことじゃなくして、好きな人を集めて、そして何とか鍛えて、で勝ちます、と。
「なるべくなら、後攻を取りなさい」と。後攻を取る理由は、1回表を0にすれば、その裏を3三振であろうと、判定負けはないんですよね。だから、「2回も0でええよ、3三振でええよ」「3回もそうでええよ」と。相手が段々とムードの中へ入ってくれるんですかね。そういう中で、少しの点でもって勝つような野球を目標としとるんです。
これが、亡くなる1か月弱前です。まだ元気にお話されていました。
◆「対戦相手に重圧をかけ負けに追い込む」

迫田監督を知ったのは、JNN系列局の仲間、広島の中国放送(RCC)がラジオ番組『生涯野球監督 迫田穆成~終わりなき情熱から』を制作・放送し、文化庁芸術祭賞で大賞を受賞したことがきっかけです。番組の一部をお聴きください。
迫田:例えば、プロ野球の山本浩二さんからちょっと教えてもらっても、分からんです。私が分からんのに、子供に言うて分かる訳ないんです。野球人は「プロの一番うまい人に聞けばええんじゃないか」と言うけど、それよりか、野球を離れた、合気道の先生や病院の先生とかお寺の和尚さんがいい話をしてもろうたら、私は話ができるんですよ、生徒に。それが分かって野球をやってくれたら、すごくいい選手になる。ごまん(といる)の観衆の中でも通用する、精神力のある選手になる。そこらが一番大事。ええ選手を集めて、自分よりうまい奴を教えてもしょうがないですよ。
お話を聴いているのはRCCのアナウンサー、坂上俊次(さかうえ・しゅんじ)さん。このラジオドキュメンタリーの取材、構成を担当しました。坂上アナのナレーションをお聴きください。
坂上アナ:高校野球では、選手が成長途上のためすきがあるし、異常なプレッシャーがかかる。特に甲子園での試合は、とてもじゃないが平常心を保てない。ならば、勝ちパターンを作るより、相手に重圧をかけ負けに追い込む方が勝機が広がると考え、緻密で創造する野球を探求した。