大学2年生の森秋彩(20、もり・あい)が今年8月のクライミング世界選手権(ベルン)女子複合で銅メダルを獲得し、2024年のパリ五輪代表に内定した。大柄な外国勢を凌駕する小柄な彼女の強さの秘密にスポーツキャスター高橋尚子(元女子マラソン選手、00年シドニー五輪・金)が迫った。

小さくても技術でカバーすることはできる

Q.全然、高さは平気なのか、簡単なのか
森秋彩:

全然(笑)。高い所にいるほうがワクワクします。

森秋彩(20、もり・あい)木登りが好きな少女だった

壁を登るその姿からは、楽しさが溢れていた。木登りが好きだった少女は、今やパリ五輪の金メダル候補となった。
Q.華奢でマラソン選手に近い。(身長154センチは)小柄に思えるが…
森:

一般的には大きい方が有利と言われているけど、十分技術でカバーする事は出来るし、小さい方がバランスを取りやすかったりするので、小さくても頑張ってやっています。

世界一の「保持力」をもたらす手と足

得意の種目“リード”ではワールドカップ3勝をあげた。“リード”は6分間で登った高さ(到達高度)を競い、最も長い距離を登る種目であり持久力が勝敗をわける。森選手が世界一と言われるのが「保持力」。実際に見せてもらうと、なんと指2本で自分の全体重を支えて見せた。

森選手「2ミリだったら(ホールドを)確実に捉えられる」

「2ミリだったら確実に捉えられる」と、わずか2ミリのホールドを掴んでしまう指の強さが「保持力」の秘密であり、小さい体に無限大の可能性をもたらす武器である。その証は両手のひらに刻まれていた。

森選手の手のひら「指の腹にマメが」


Q.ここ(指の腹)にマメが出来ている…はじめは破けたりするのか
森:

破けます。痛いけど…やるしかない(笑)

さらに腕のスタミナを温存するためには足で行う“ヒールフック”が勝負のカギを握る。

勝負の鍵を握る“ヒールフック”

ホールドに「かかと」をかけるヒールフック。腕よりも筋力量が多い足を使うことでより高い所に登ることが出来る。

Q.“ヒールフック”とは
森:

足も手みたいにして使って、足で引き付けて登ります。
Q.踵(かかと)を手のように使うという事か
森:

踵を(ホールドにかけて)体重をかけると簡単に手を届かせることが出来る。(ホールドの)高い所にも乗せられますし、一気に距離を延ばすことが出来る。両手を離せてしまうくらい、踵に重心を乗せています。

足を手みたいに使う“ヒールフック”

Q.足に吸盤がついてるみたい
森:

(右の)踵に全体重をかけることで、右手を使わないで重心をあげられる。重心を右に持ってきたいときは、腕で引くように足でも引く。

Q.足がこんなに重要だとは見た目でわからなかった
森:

足、超大事です。

そして“ヒールフック”を活かすべく股関節の柔らかさも強化した。元々は体が硬かったが、ストレッチなどで柔らかくしていき、今では開脚も出来るようになった。足を肩までの位置に上げられるほど稼働域も拡がり、「足も手みたいに使う」世界一の保持力をもたらす“ヒールフック”が完成した。
 
Q.パリ五輪の目標は
森:

一番は楽しんでのびのび登っている姿を見てもらいたい。次に出るからには優勝を目指して頑張りたい。五輪だけにとらわれず、一生を通して大好きなクライミングを楽しみたい。その通過点として、たくさん吸収できるものを吸収して、良い経験ができたらいいなと、思っている。

(パリ五輪は)優勝を目指して頑張りたい

■森秋彩(もり・あい)2003年生まれ 茨城県出身 154センチ
2022年9月ワールドカップ(リード)で初優勝。同年10月ワールドカップ複合でも初優勝。ワールドカップ(リード)ではこれまで3勝。2023年世界選手権女子複合での銅メダル獲得によりパリ五輪代表に内定した。