富山県デザイン展でユニークなプロジェクトが最高賞の県知事賞に輝きました。これまで紹介してきた「とやまふぉんと」です。地域の新しいつながり生むソーシャルなデザインとして注目されています。

小さな粒々でふちどられた温かみのあるアルファベット。

いくつもの絵を地層のように重ねた斬新な柄はとやまの自然を表現しています。

「とやまふぉんと」というプロジェクトで生まれた、この独特な文字や柄。

今年の県デザイン展で、この「とやまふぉんと」が最高賞の県知事賞に選ばれ、携わった人たちみんなで受賞を祝いました。

実は「とやまふぉんと」、たくさんの人とデザイナーとの共同作業で作られているんです。

「とやまふぉんと」デザイナー 山口久美子さん:「みなさんで絵を描きましょうね」

去年7月、富山市のデザイナー山口久美子さんたちが訪れたのは、南砺市の多機能型事業所「花椿かがやき」です。

デザイナーたちは、利用者に思い思いに絵を描いてもらいながら、デザインの基になる絵や文字を探していきます。

花椿かがやきスタッフ 坂田佳永子さん:
「これもあります」

「とやまふぉんと」デザイナー 山口久美子さん:「おー。もうできてんじゃん」

デザイナーの目にとまったのは、球団のマスコットを刺繍した味のある刺し子。

花椿かがやきスタッフ 坂田佳永子さん:「これは誰に見せますか」
花椿かがやき 境仁志さん:「お父さん」

フォントの文字に採用が決まったのは境仁志さんの刺し子。

境さんは、コロナ禍で家族と会えなかった時に「お父さんに見せたい」と刺し子に取り組んできました。

事業所ではもう一人、定村晴美さんも刺し子が得意。

フォントは2人の刺し子を基にデザインされることになりました。

花椿かがやきスタッフ 坂田佳永子さん:「お母さんどう言っておられる?喜ばれる?」

花椿かがやき 定村晴美さん:「喜ばれるね」

花椿かがやきスタッフ 坂田佳永子さん:「がんばったねって言われるかな?」

花椿かがやき 定村晴美さん:「言われるね」

「とやまふぉんと」デザイナー 山口久美子さん:「たぶんこれ縫い目とかなんですけど、こういうのもちゃんと生かして。aがなんかすごいがんばってコミコミなんですけど…」

事業所でのワークショップで見つけた文字や絵を、デザイナーが個人や企業が利用しやすいようにフォントや柄に仕上げていきます。

試行錯誤し、およそ4か月かけて「とやまふぉんと」が誕生。

「とやまふぉんと」は、障害のある人たちの文字や絵を商品化などにつなげ、売上げの一部を福祉施設に還元する仕組みです。

今年4月には、地元企業としては初めて、魚津酒造が「とやまふぉんと」を活用して日本酒のラベルを作りました。

県内企業での活用も始まり、障害のある人たちと企業との新しいつながりも生まれ始めています。

今月12日に表彰式が行われた県デザイン展で、最高賞を獲得した「とやまふぉんと」。会場には、刺し子でフォントを縫った境さんと定村さんも駆けつけました。

記者:「お父さん何か言ってらっしゃいます?喜んでおられる?」

花椿かがやき 境仁志さん:「うん」

記者:「スーツに合ってますね」

花椿かがやき 境仁志さん:「うん」

定村晴美さんの母:「きれいに仕上がったね」

花椿かがやき 定村晴美さん:「うれしいです」

定村晴美さんの母:「普段光を当ててもらうことがない子どもたちに、こういうところを発見していただいて、作品にしていただいたことに感謝です」

富山県デザイン協会によりますと、審査員からは、グラフィックの美しさに加えて、障害のある人との協働作業で地域のコミュニケーションの新しい展開を作ったことが、大賞にふさわしいデザインとして評価されたということです。

「とやまふぉんと」デザイナー 門嶋隆祐さん:「障害のある人のアートがどんどん広がっていけば生きやすくなるんじゃないかと思いますんで、そのお手伝いができたらいいなと」

「とやまふぉんと」デザイナー 山口久美子さん:「まだ2つの事業所だけだし、増やしていきたいですよね。みんなが楽しくやれればいいですよね」

「とやまふぉんと」の第2弾は、門嶋さんがデザインを担当して、高岡市の「自立サポートJam」の利用者とコラボレーション。個性的なフォントと5種類の柄が新たにラインナップに加わり、年内にも利用可能となる予定です。

山口さんと門嶋さんは、もっと「とやまふぉんと」の輪を広げていきたいとしています。