ニワトリの餌にある“秘密”

新潟県内を流れる大河・信濃川に架かる長岡市のシンボルの一つ長生橋。
そのたもとに広がる野菜畑のすぐそばに、ニワトリ。

市内に住む猪俣謙太郎さん(38歳)は、飼育しているニワトリに“特別なエサ”を与えていました。


「25%ずつくらい米ぬかしょうゆのかすが入って、半分くらいがビールかす。そして卵の殻がちょっとだけ…」

実は、ニワトリの餌の中に『ビールのかす』が入っていました。

ビールを仕込む際に出る「麦芽かす」は、メーカーではどうしても一度に多くの量を捨てなければならず、悩みの種になっています。

人にも動物にも嬉しい 廃棄『ゼロ』

醸造のまち長岡市で、新たな事業としてクラフトビールを造りはじめた『ホクショク』の醸造所には、大きなタンクが並んでいます。

ビール造りには、大麦や小麦などの麦芽が欠かせませんが、そこで発生するのが麦汁を絞ったあとの「麦芽かす」。一度の仕込みで200kgから250kgほどの量が出るそうですが、これまでは費用をかけて処理していたといいます。

【ホクショク 佐藤雅史工場長】
「どうしても行き場のないものなので、廃棄物として処理するしかなかった。正直『何か使えないかな』と思いながら捨てていたら、“捨てる神あれば拾う神あり”という形で…」


捨てるしかなかった麦芽かす全量を、猪俣さんに週一回、無料で提供することに。
ニワトリの餌などに活用して、廃棄が“ゼロ”になりました。

麦芽かすは、高たんぱくで食物繊維も豊富なので、ニワトリにとって主要なエネルギー源となり、食べれば元気いっぱいになるそうです。

【猪俣謙太郎さん】
「以前には『くず米』という、規格外のコメを買っていた時期もあるんですけど、週一回20kgで2000円くらいしてしまう。それに比べるとかなりお得」

朝の作業を終えた猪俣さんが続いて取り掛かったのは、なんと『クッキー作り』。
使うのは、麦芽かすを食べて育ったニワトリの“卵”。

猪俣さんの本業は、自身で経営する“英語教室の先生”ですが、育てたニワトリの卵を使って『焼き菓子』を作り、道の駅など市内の4か所で販売しているそうです。

これまで行き場のなかった「麦芽かす」は、巡り巡って誰かの“おいしい”につながる『優しい循環』を生んでいました。

【猪俣謙太郎さん】
「捨てるものを使わせてもらっているので、ただただありがたいなと。食べた人に笑顔になってもらえるといい」

猪俣さんは、「カルシウムがないと骨粗鬆症みたいになるらしくて…」と、卵の殻もさらに餌に混ぜてまたニワトリにあげているほか、麦芽かすを食べて育ったニワトリの“フン”は堆肥にして畑に撒いているそうです。

どんなことも無駄にしないという『SDGsの輪』が、どんどん広がっていくとよいですね。