静岡市清水区の工場近くの井戸水から、国が定める公共用水域の暫定目標値を大幅に超える有機フッ素化合物「PFAS」のPFOAが検出された問題について、現地調査も行った原田浩二・京都大大学院准教授に聞きました。

ー水質の暫定目標値は水1リットル当たり50ナノグラム。静岡市が井戸水から検出した最高値は、26倍の1300ナノグラム/ℓでした。この値をどう受け止めますか?
原田:もともと自然界に存在しないPFOAが、1000ナノグラム/ℓを超えて検出されるのは全国的に非常に稀です。

ー工場では、10年以上前にPFOAの使用をやめたにもかかわらず、高い値が検出されたのはなぜですか?
工場で長年PFOAを使ってきた過程で、土壌を通じて地下水に残っていると考えられます。PFOAは水に溶けやすく、分解されにくい性質があり、土壌を通して地下水に染み出していく汚染メカニズムが明らかになっています。
工場でのPFOA使用量は、年間数十トンだったとみられます。アメリカなどで行われた調査では、PFOA排出量全体のうち10%は土壌に入っていくことが分かっています。使用量の一部が敷地内で土壌などに漏れ出たとしても、いまだに高濃度で検出されることは十分にあり得ます。
ー目標値を上回る状態はいつまで続くのでしょうか?
目標値の50ナノグラム/ℓというのは、極めて微量。非常に厳しい目標値です。それでもリスクを未然に防ぐためにはこの目標値まで濃度を下げる必要があるということです。ですが、PFOAは非常に分解されにくいので、一度起こった汚染は長く続くでしょう。これから10年、20年が経ったとしても、依然として高濃度の状態が続くことは予想されます。

ー目標値を上回るPFOAが検出された井戸水を利用する住民が気をつけることは何ですか?
井戸水を直接飲むのは避けるべきです。井戸水を使った洗い物については、問題ないと思います。PFOAは、口から入った場合に人体に吸収されやすい性質があります。よほど高濃度でない限り、皮膚から体内に入ることはほとんどないと考えられます。水道水からはPFOAの検出はほとんどないということですので、水道水の利用は差し支えないでしょう。
ー井戸水を使って育てた農作物を食べても大丈夫ですか?
PFOAが、土壌から農作物に入り込みやすいわけではありません。現時点で井戸水から検出されている濃度であれば、食べても大きな問題はないでしょう。ただし、農作物の安心安全を確保するためには、行政が検査をして、実際にそれほど残留濃度が高くないということをしっかり確認することが重要だと思います。そうすれば住民も安心できます。

ーこれから行政はどう対応していくべきですか?
どこまで影響が広がっているのかを、しっかり調査していく必要があります。住民が生活の中で触れるのは、地下水だけではなく、土壌もあるわけですね。住民は何が知りたいのか、データはどう出していくのか、住民と行政が対話しながら検査体制を整え、影響の有無を調べていくべきだと思います。
ーPFOAが人体にもたらす影響について、現在分かっていること、分かっていないことを教えてください。
海外では人での健康調査が行われていて、コレステロール値の上昇や発がん、免疫系統との関連が報告されています。しかし、どれだけの量が体に入ると影響が出るのか、はっきりしたデータはありません。水質の目標値も国によってさまざまです。
ー体内にどれくらいPFOAが蓄積されているかは、血液検査で分かるのですか?
はい。血中濃度を測るのが最も確かな検査方法です。

ー住民が不安に思った場合、血液検査をする必要はないのでしょうか?
口から摂取しない限り、人体への影響は少ないと考えられます。ただ、工場近くに住む住民とそれ以外の住民とで、血中濃度の差を確認することに意味はあります。井戸水という環境からは検出されているが、住民が直接摂取をしていないということが分かれば、将来的な健康上のリスクも少ないだろうと安心できるからです。行政も、今後の対応を考えるうえで参考になるのではないでしょうか。
【有機フッ素化合物「PFAS」とPFOA】
環境省の資料によると、PFASには1万種類以上の物質がある。そのうちPFOAとPFOSは製品製造過程で広く使われ、現在は使用が禁止されているものの、自然界への残留が世界的な環境問題となっている。国が定める水質の暫定目標値は、PFOAとPFOSの合算値。静岡市清水区の工場ではPFOAが使われていた。