北アルプス黒部峡谷の下ノ廊下は、断崖絶壁に作られた狭い登山道を歩く上級者に人気のルートです。その一方、事故が多発していて16日にも74歳の男性が滑落し、死亡する事故がありました。5年前には10日余りで男女5人が相次いで亡くなる事故もあったほか、毎年事故が起きています。これからは秋の紅葉のシーズン。登山者たちを魅了する黒部峡谷の“美しさ”と“険しさ”とは…。

これは去年11月に撮影された黒部峡谷の下ノ廊下(しものろうか)の映像です。足元を見ると恐ろしいほどに切れ落ちています。

黒部峡谷は、黒部湖から上流を「上ノ廊下」、下流を「下ノ廊下」と呼ばれています。世界有数の豪雪地帯として知られる黒部の「水力」を利用してダムや発電所を作るため、戦前から、この険しい峡谷に道が作られました。下ノ廊下には黒部峡谷鉄道の終点、欅平から仙人谷までの「水平歩道」と、仙人谷から黒部ダムまでの「日電歩道」の登山道があります。日電歩道は戦前に日本電力という会社が作った道です。欅平から黒部ダムまではおよそ30キロの道のりで、雪の消えた秋の2か月間ほどだけ開通します。

これから黒部峡谷の紅葉の最盛期。途中、川が交錯する「十字峡」や「S字峡」などの絶景ポイントもあり人気のルートですが、滑落事故が多発する“上級者向け”として知られています。

今年もまた事故が起きてしまいました。事故があったのは10月16日、午後4時40分ごろ、下ノ廊下の道中にある阿曽原温泉小屋に「権現峠のトンネルから仙人谷ダム側で、74歳の男性ツアー客が転落した。下を覗いても確認できず、呼び掛けにも応答がない」と通報がありました。

権現峠とは、阿曽原と仙人谷ダム間の「水平歩道」にある短いトンネルで、大阪府の木村修治さん(74)が、標高950メートル付近から足を滑らせたといいます。木村さんはガイドを含めた7人で、黒部ダムから欅平に向かう1泊2日の登山ツアーに参加していました。

「水平歩道」は狭いところで道幅が60センチほどしかなく、広いところでも1メートルほど。道中の崖側にはワイヤーも張られていますが事故は後を絶ちません。

通報を受けた阿曽原温泉小屋の佐々木泉代表は…。

阿曽原温泉小屋 佐々木泉代表:「現場は仙人ダムでいったん下った場所から水平歩道まで登り返して、阿曽原の真上でまたずどんと下がってくる。その途中の水平歩道から転落した。落ちた現場は山側が岩壁みたいになっていて、道幅が非常に狭く、針金(安全確保用のワイヤー)はちゃんとはわせてあるんだけど、なんかちょっとつまづいて、反応がにぶくなって針金をつかみそこなったのではないかと想像しているんだけど​」